「APAアワード2024」金丸重嶺賞受賞の星野藍さん 普通の女性会社員が「旧ソ連」「旧共産圏」の廃墟を巡るクレイジーな旅の原点
ひとりで旧ソ連や旧共産圏の廃墟を巡り、写真を撮り続けている日本人女性がいる。普段はある企業に勤めている星野藍さんだ。長い休みが取れると、廃墟を求めて旅に出ては写真を撮り続け、これまで6冊の写真集を出版。さらに旧ソ連で撮影した写真が、公益社団法人日本広告写真家協会主催の公募展「APAアワード2024」で金丸重嶺賞を受賞した。普通の会社員が見つけるのも行くのも大変そうな旧ソ連などの廃墟を目指し、撮影する理由とは? 女性ひとりで危なくない? 気になることを聞いた。【華川富士也/ライター】
【写真を見る】なぜ人は廃墟に惹かれるのか。星野さんが撮影する人影の消えた遊園地、造船所には抗しがたい魅力がある
“軍服を着た男”が突然に
星野さんはテレビCMも放送されている某企業に勤務する女性。10年ほど前から旧ソ連、旧共産圏の廃墟を撮り始め、今年6月に写真集『ソ連の乗り物(旧共産遺産シリーズ1)』を、12月には通算6冊目となる写真集『ソ連のバス停(旧共産遺産シリーズ2)』を発売した。前者ではジョージア、ウクライナ、キルギス、リトアニア、ウズベキスタン、ロシアなどに残る廃ロープウェイや車庫に大量に置かれた廃鉄道車両、建造途中で放棄された船、かつて湖だった場所に放置された廃船などを紹介。後者では旧ソ連の国々に残る驚きのデザインのバス停を紹介している。もちろんそれぞれの国を訪れたのはロシアとウクライナの戦争が始まるより前だ。
近年、“廃墟趣味”は男女や年齢など関係なく広がり、実際に廃墟を訪れてSNSに写真をアップする人がたくさんいる。しかし、旧ソ連や旧共産圏の国々へ足を伸ばしている日本人女性となると非常にレアだ。難しいことで知られるロシア語、未発達の交通網、冬場の寒すぎる気候など、訪問を躊躇させる要素もある。星野さんが訪れた旧ソ連の廃墟の中には、気軽に行けない場所も多数含まれている。しかも女性の一人旅。危険なことはなかった?
「黒海沿いのある地域の市場でお土産を買って歩いていたら、軍の車に乗っている軍人さんに、“丘の上からいい景色が見える。連れて行くから乗りなよ”と声をかけられたことがありました。軍服を着ているし、シートにその国の外務省の封筒があったから大丈夫かな、と乗ったんですが、その男、丘の上についたら突然ズボンを下げて“べろ~ん”と見せてきたんです。慌てて逃げました。でも車にお土産を置いてきたことに気がついて、しょうがないから車に取りに行って、また逃げたことがありました。それ以上、追いかけてこなかったので助かりました」
「ふざけんな!」と叫んで逃げたことも
初対面の女性にいきなり下半身を露出するなど、およそまともではない。また、別のある未承認国家では、
「洋服屋さんとお土産屋さんを兼ねている店があって、店員さんがみんなフレンドリーで、お茶やケーキを出してくれたから、食べていたんですよ。私が写真を撮りに来たって話をしたら、男の店員に“景色がいいところから撮るか?”って言われ、ついて行ったら、店の裏の建物の2階の休憩室みたいな部屋。ベッドがあって、あ、これは危ないな、と思った瞬間に腕をつかまれ、強引に引きずり込まれそうに。私は日本語で“ふざけんな!”と大声を出して、振り払ってなんとか逃げました」
2度のピンチはいずれも親切そうに近寄ってきて、途中から態度が変わった。星野さんは全力で拒んで逃げ、相手が深追いしてこなかったことでなんとか助かった。ここで正解だったのは、襲われた時に日本語で大声を出して拒絶したことだったという。言葉がわからなくても、怒っていることは伝わる。「相手の国の言葉で何て言うんだっけ?」などと考える必要はない。
星野さんは、旅先で完全に気を抜くことはなく、危険を察知するセンサー(勘)は切らずに常に働かせているという。相手が親切そうに見えても、だ。
「ついて行かなければいい話ではあるんですが、何もしないと面白いことも起こらないので、勘だけは働かせ、少しでも“危ない”と思ったらすぐに撤収するようにしています。それからイスラム圏の国の場合、イスラム教徒の男の人の中には、異教徒の女性や外国人の女性に対して何をしてもいいと思っている奴がいますので、女性は気をつけた方がいいと思います」
イスラム圏については外務省も服装、飲酒、宗教議論などについての注意喚起をしている。
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