年の差不倫×介護という新奇性で目が離せない「ゆりあ先生の赤い糸」
ここ数年で尽力してきた案件があったが、ストレスと怒りと絶望がたまり、ぷつんと糸が切れるように心が折れた。私は逃げた。逃げると決めてからは速かった。1年で2回転居して、今は穏やかな日々を過ごしている。だからこのドラマのタイトルを「張り詰めた糸が切れて人生が変わる」方向で捉えてしまう。「ゆりあ先生の赤い糸」である。
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主人公は刺繍の先生・ゆりあ。菅野美穂がアラフィフの憂いと貫禄をよきあんばいで体現。売れない物書きの夫・吾良(田中哲司)と食欲最優先の老いた義母(三田佳子)と穏やかに暮らしていた。ところが夫はくも膜下出血で倒れる。そのとき一緒にいたのは若い男・稟久(鈴鹿央士)。ホテルから救急搬送、つまり夫は男と浮気していたことが発覚する。これが第一の衝撃。
回復の見込みがなく、意識不明の夫を自宅で介護すると決めたゆりあ。そこに子供がふたり駆け込んでくる。なぜか夫をパパと呼ぶ。その母・みちる(松岡茉優)も含め、夫がこの一家の生活を密かに支えていたことがわかる。これが第二の衝撃。突然現れた夫の愛人は、ゲイとDV夫から逃げるシングルマザー(離婚はしていない)。波乱の展開だ。
とはいえ、夫の24時間介護をひとりでこなすには無理がある。そもそも義母はどちらかといえば介護される側だし、無責任で自己愛の強い義妹(宮澤エマ)は正直、戦力外だ。そこでこの若い愛人どもを取り込み、介護の人員を確保。稟久は通いで、みちると子供ふたりは家に住まわせ、交代制で夫の介護をさせるゆりあ。
やけっぱちで太っ腹、肝っ玉据わり過ぎだが、妙案。妻と愛人たちと厄介な家族の忌憚(きたん)なき毒舌の応酬にはストレス解消効果もあり、ひとりで抱えこむよりは健全。子供や若者の存在は義母のボケ防止に格好の刺激である。気の強い人・我の強い人・面倒くさい人・業の深い人をひとつ屋根の下に集結させた妙。なるほど。
これ、介護という観点からは思わず膝を打つ奇策の疑似家族ドラマだが、主題はそこじゃない。緊張の糸ではなく運命の赤い糸、年の差不倫の恋愛モノなのよ。
怒濤の介護&大所帯生活の中で、ゆりあには救世主が現れる。親子ほど年の離れた便利屋の優弥(木戸大聖)と恋に落ちる。子持ちで、妻と別居中の若い男と、だ。
ゆりあの姉(吉瀬美智子)も18歳年下の男と絶賛不倫中。人生を謳歌する姉のようには自由になりきれないゆりあ。責任感と罪悪感、年齢差に対する自虐と卑下が邪魔をする。大手を振って恋に突っ走れる環境を作りながらも、その恋を阻む小姑も多数用意するというアメとムチ構造。優弥の父(宮藤官九郎)も交際にはやんわり反対。小姑も足かせも大量に配備されているのだ。
責任感の強い真面目な女がひとり犠牲にならないよう、ただの滅私奉公な頑張り屋でエエ話に終わらせないよう、この物語ではゆりあに欲と業と言語を持たせている。そこがいいと思う。
しかも吾良がうっかり回復。ゆりあの恋は? 覚悟は? 選択は? と目が離せず。新奇性のある作品だ。