「大奥 season2」最終回 原作者が“男女逆転“という設定にした本当の狙い

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「これが光でなくて、なんでしょう」

 親子は幕藩体制強化に向けた公武合体のため、江戸に来た。和宮(中嶋海央・29)の姉だ。しかし、生まれつき左手が欠損していたため、生まれてこなかったことにされてしまい、座敷牢で暮らしていた。母・観行院(平岩紙・44)の愛も受けられなかった。

 家茂と結ばれるのは本来、和宮のはずだった。史実の通りだ。しかし、和宮は江戸行きを拒否。自害まで図る。そこで身代わりを買って出たのが親子だった。江戸行きには観行院が同行すると聞き、やっと母の愛が得られると考えたのだ。

 もっとも、観行院の愛は京に残した和宮に向けられたまま。親子の心は石のように閉ざされた。それを解きほぐしたのが家茂である。寒くはないかと気遣ったり、カステラを用意したり。

 家茂は、内乱回避につながる公武合体に応じた親子を「光」と讃えた。

「住み慣れた京を離れ、江戸へ下ってくださる宮さま。これが光でなくて、なんでしょう」(家茂)

 照れ屋の親子は「あんたはホンマ、いちいち真面目で肩こるわ」と素っ気なく言ったが、その言葉に布団を被って泣いた。日陰者として生きてきたが、初めて認めてくれる人が現れ、その人からの愛を実感したからだ。

ドラマに込められた「考えるヒント」

 岸井と志田を含め、「大奥」には演技がうまい人しか出てこない。田沼意次役の松下奈緒(38)、一橋治済役の仲間由紀恵(44)、阿部正弘役の瀧内公美(34)、13代将軍役の愛希れいか(32)――。その上、原作漫画の作者・よしながふみ氏と脚本家の森下佳子氏は名手。面白くならないはずがない。

 家茂と親子の関係を観て、「愛とは何か」を考えさせられた。性別とは別次元のところにあると思わせた。「大奥」の優れているところは、答えを出すのがやや難しい問題のヒントをストーリーの中にさらりと織り込んでいる点だ。

 通算18回(season2の8回)ではジェンダー問題にも触れた。この問題をドラマで扱おうとすると、理屈っぽくなったり、小難しくなったりしがちだが、男女逆転下という特性を生かし、しなやかに表した。

 海外各国の脅威にさらされていたころ、家定(愛希れいか)は伴侶の胤篤(福士蒼汰)と語り合っていた。胤篤は後に天璋院となり、家茂を支える。家定はこう言った。

「西洋の国々は確かに強い。しかし、どこも主たるは男。女の力は認めぬ。実は、ワシはここが勝ち目じゃと思うておるのじゃ。おなごにも力のあるものは大勢おる。身分、さらには男女の別もなく、人を取り立てると思えば、倍の中から人を取り立てられる」(家定)

 ジェンダー問題の重大な一部分が集約されていた。この作品は娯楽色を強めるために男女逆転という設定にしたわけではない。この言葉も含め、男女逆転下であるからこそ伝えられるメッセージがある。

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