「大奥 season2」最終回 原作者が“男女逆転“という設定にした本当の狙い

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 男女の役割が逆転した江戸時代を舞台とするNHKの「ドラマ10大奥season2」(毎週火曜午後10時)が、最終回を迎える。評判高く、熱狂的ファンを生んだ。なぜ、高評価だったのか? 考察してみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

時代劇の優位性を再大限まで生かす「大奥」

「そやから言うたやない! 行くなて……おればよかったやない! 私のそばに……」

 孝明天皇(茂山逸平・44)の妹で、岸井ゆきの(31)が演じる親子(ちかこ)は身をよじって泣いた。愛する伴侶・14代将軍の徳川家茂(志田彩良・24)が死んだからだ。家茂は体調を損ねていたにもかかわらず、長州征伐の指揮を執るために上洛。そのまま帰らぬ人となった。第20回(season2の10回)のことだ。

 ベテラン制作者に話を聞くと、現代劇より時代劇のほうが圧倒的に優位なのは人間の美醜を表しやすいところ。例えば仏のような名奉行や鬼のような悪代官に真実味が出せる。さらに愛も描きやすい。これらの優位性を最大限まで生かしているのが「大奥」である。

 なぜ、愛を描きやすいか。その大きな理由は不便な時代だから。親子は体調不良を押して京に旅立った家茂が心配でならなかった。今のように携帯電話やスマホで頻繁に連絡を取り合うわけにはいかなかったから、余計に不安が募った。

 そこで自分が妊娠し、家茂の子供だと偽ろうとする。家茂自身が妊娠したということになったら、江戸城に戻らざるを得なくなると考えた。

時代劇だからこそ伝わる2人の強固な愛

 奇策だけに大奥総取締役の瀧山(古川雄大・36)らが反対すると、親子は語気を強めて家茂の体調不良を訴えた。

「上さんはここ1年、月のもんがのうなってるんや! 長旅できるような体ちゃうんや!」(親子)

 だが、間に合わなかった。親子の悪い予感は最悪の形で的中してしまう。

 親子は家茂の訃報を既に受けていながら、あらためて臨終に立ち会った官人・能登(中村アン・36)から報告を受けた。

「苦しまんと逝かはったんの?」(親子)

 放心状態での問いだった。能登は「はい」と答える。虚言である。親子を悲しませたくない家茂から、そう伝えるよう命じられていた。

 だが、能登は嘘を吐き通せない。親子と家茂が深く愛し合っていることを知っていたからだ。その人が愛している相手の最期について、偽りを伝えるのは難しい。

「上様は最期までお苦しみでいらっしゃいました。死にたくないと仰っていました」(能登)

 家茂は死の間際、「会いたい、宮さまと会いたい、親子さまと会いたい……」と、うめくように漏らしたという。それを知った親子はもう堪えきれない。大粒の涙を流し始めた。

 今の時代、愛する人の重体、あるいは危篤の報せを受けたら、飛行機か新幹線で病床に駆け付けるだろう。スマホのビデオ通話を使うかも知れない。時代劇だから2人の強固な愛が伝わってきた。観る側の胸を打った。

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