やせるだけでなくアルツハイマー予防にも 魔法の薬「オゼンピック」「ウゴービ」の効能を示す科学的データ

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認知症に関する論文も

 GLP-1受容体作動薬と認知症に関する研究論文もすでに出ている。

 そこでは、

「2型糖尿病患者の中で、GLP-1受容体作動薬を使用して治療を行っていた人の方が、他剤を使用していた患者と比較して認知症の発症リスクが若干少ない、という研究結果が示されています。具体的には、GLP-1受容体作動薬を使用していた患者の方が、アルツハイマー型を含む認知症の発症リスクが約14%低くなっていました」(ナビタスクリニックの内科医・久住英二氏)

 先の坂本氏は、

「そもそも2型糖尿病患者はアルツハイマー型あるいは脳梗塞後などの血管性認知症になるリスクが高いことが知られています。従って脳梗塞発症後のリスクがより高い場合、すでに発症している場合などは、GLP-1受容体作動薬の使用を視野に入れることができるのではないでしょうか」

 としつつ、こう話す。

「ただ、臨床試験の莫大な費用などを考慮すると、アルツハイマー型などの認知症に対する治療薬としてGLP-1受容体作動薬が保険適用になることは考えにくいでしょう。あくまで糖尿病の患者がアルツハイマー型などの認知症になるリスクを下げられるかもしれない、ということです」

混沌とする治療薬市場

 糖尿病治療だけではなく、やせる効果もあり、心臓、脳血管、腎臓、果ては認知症にまで……。「魔法の薬」と表現する医師がいるのもうなずけるが、薬が人気になったために供給不足が起こっているのは困った事態である。その背景には、健康な人が痩身目的でオゼンピックなどを自由診療で処方してもらっていることがある、とされている。

「ウゴービが来年2月に発売されることが決定しましたが、正直なところ、本当に安定した供給がされるかどうかに関してはやや心配があります。というのも、11月上旬まではGLP-1受容体作動薬のみが供給不足でしたが、実は現在、インスリン製剤までもが不足し始め、注射製剤の安定供給が懸念されているところです」(坂本氏)

 GLP-1製剤やインスリン製剤といった注射製剤は、国際的に3社がそれぞれ発売しているといい、

「1社の製剤の供給不足が報告されると、他社のものまでが供給不足になるという状態になってしまいました。実際の臨床の場において、新しい製剤による治療が開始となり、効果が認められた後にその薬が使用できなくなるということは、患者さんの状態が悪化するということにつながりかねません。特にインスリン製剤は1型糖尿病の人が生きるために必要不可欠なものです。3社の協力体制が期待されるところではありますが、それはなかなか難しいのが現状かもしれません。いち早い改善が望まれます」(同)

 多くの人にとって希望の光となる可能性を秘めた「魔法の薬」は、糖尿病治療薬の市場全体を混沌とさせるなど、“影”の部分も大きいのだ。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

特集「『やせる』だけではなく『心不全』『アルツハイマー』予防まで 論文・科学データが示す“魔法の薬”『オゼンピック』『ウゴービ』の効能」より

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