もはや日本は最貧国… 輸入大国なのに岸田総理の円安放置で物価はさらに上がる

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円安を放置するうちに最貧国の仲間入り?

 2023年3月期、過去最高益を上げた企業が続出し、株価も堅調に推移している。そうした報道を見て、日本経済の状況は悪くないと錯覚する人も多いと思うが、そこに落とし穴がある。最高益を更新する企業の多くは、いうまでもなく輸出企業である。あるいは、商社は三菱商事や三井物産をはじめ多くが過去最高益を上げたが、簡単にいえば、彼らの取引はドル建てなので利益が出るのである。

 しかし、仮にこうした企業が利益を従業員にしっかりと還元したところで、われわれの生活の過半が輸入頼みである以上、輸入品の物価上昇に追いつかない。ましてや、輸入が多い企業にとっては逆風が吹き続けているのだから、異常な円安を放置しているかぎり、岸田総理がいう「国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態」など、実現できるはずがない。

 円安の原因をつくったのは、2012年12月に発足した第2次安倍晋三内閣が掲げたアベノミクスで、いわゆる「3本の矢」のうちの「金融政策」である。安倍元総理の肝いりで日銀総裁に就任した黒田東彦氏が、異次元の金融政策としてゼロ金利を打ち出すと、1ドルが80円程度だった円の価格は急降下し、輸出企業の利益は大幅に増加。株価も上がった。

 それが一時的な策ならいいとしても、黒田氏は今年4月に退任するまで異次元緩和策を継続し、代わって就任した植田和男氏も、いまなおこの政策を改めない。こうしてこの11年余り、輸出企業を中心に多くの企業が濡れ手で粟の利益を得て、過去最高益を次々と更新している。それがどういう状態かといえば、なんら技術革新をせずとも、異次元緩和のおかげで円安が続くかぎり、黙っていれば利益が上がる、ということである。利益を享受している側にすれば、異常な円安の状況を変えたいと思うはずがない。

 政府も日銀も、そして野党も、そのあたりに遠慮があって、日本人が貧しくなる根本的な原因を見て見ぬふりをしているのだろうか。そうだとしたら、あまりにも罪深い。いま「見て見ぬふり」といったが、円安がもたらしている負の効果に気づいていないとしたら、それはもっと問題である。

 冒頭で、訪日する外国人が円安を歓迎している旨を述べた。しかし、それは、われわれが欧米に行くと、面食らうほどの物価高に出会うということである。私が今年、ヨーロッパに数度行った際の実感でいえば、飲食費も交通費も宿泊費も日本の1.5倍から2倍である。海外に行くと、あたかも最貧国から来たような錯覚に陥る。いや、もはや日本が最貧国だという印象は、錯覚といいきれないのかもしれない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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