「妻の命の値段は370万円…」  殺人事件「被害者遺族」が困窮する国・ニッポン、海外との違いは?

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「私や妻のように生きる気力を失う人も」

 市川さんは体重が10キロ落ちた。事件発生から9カ月がたって支給された給付金額は杏菜さん、直人さんの二人分を合わせて約680万円。杏菜さんは飲食店で働いていたが、新型コロナで休職中。直人さんも高校生で収入がなかったため、これが算定に反映されたとみられる。

「額を聞いた時は正直、たったこれだけかと思いました。お金が全てではありませんが、子どもを殺され、傷ついた心を癒やすには時間が必要です。仕事をしながら立ち直る人もいるかもしれませんが、私や妻のように生きる気力を失った人もいる。そういう遺族の生活を再建するためには、見舞金という考え方ではなく、もっと長期的な支援が必要ではないでしょうか」

 市川さんは現在、給付金を取り崩しながら、妻に寄り添って人生を立て直そうとしている。だが、その給付金も底が見えてきた。

「仕事を早く再開したいけど妻のこともありますし……。自宅の片付けもしないといけない。でもめどが立たないんです」

 しかも賠償請求できる相手はもうこの世にいない。事件の被害者遺族でありながら、「命の値段」を勝手にはじき出された上に、住居探しで行政に見放され、経済的困窮に陥るという容赦ない現実。先進国とされる日本で、未だに「殺され損」がまかり通っている。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒業。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた世相に関しても幅広く取材。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』がある。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

特別読物「妻の『命の値段は』は370万円… 殺人事件『被害者遺族』と『給付金』」より

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