「妻の命の値段は370万円…」 殺人事件「被害者遺族」が困窮する国・ニッポン、海外との違いは?
身を隠すように生きる必要が
発生時、自営業者だった市川さんは職場にいて、杏菜さんから掛かってきた電話で異変を察知した。
「杏菜の声は聞こえず、ガチャン、ガチャンというガラスを踏み締めるような音だけが響いていました。これはまずいと思い、車で急いで帰宅しました」
男は金属バットで窓ガラスを割って市川さん宅に侵入し、まず杏菜さんに、続いて直人さんに発砲した。市川さんの妻もその場に居合わせたが、近隣住民に助けを求めて外へ飛び出し、無事だった。
前兆はこの2日前に起きていた。市川さんの長男が男の元妻とコンビニで話をしていたところ、男に暴力を振るわれた。長男と元妻は会社が一緒だったが、たまに話をするだけの関係だった。しかし、それが男の逆鱗に触れ、全く関係のない長女と次男が巻き込まれたのだ。逆恨みを警戒していた長男は警察の保護下に置かれていたため、事件当日は自宅にいなかった。
事件が一斉に報道されると、市川さんはネット上で、次のようなデマに基づく誹謗中傷を浴びた。
「元妻を寝取った長男にも原因がある」
「そんな時に外出していた父親にも責任がある」
近隣住民からも「近所に謝って歩け!」と怒鳴られ、市川さんは精神を病んだ。妻も側に付いていないと、二人の後を追おうとする。おまけに犯人の関係者から危害を加えられるかもしれず、身を隠すように生きなければならなかった。
「1日1食で衣類は手洗い」
問題は住む場所だ。自宅が犯行現場だったため、事件発生から2週間は警察の宿泊施設に滞在した。その後の避難先として町営住宅への入居を申請すると、町役場から「加害者が暴力団なので他の住民に迷惑をかける可能性がある」と断られた。このためアパート経営をしている知人に頼んで、受け入れてもらった。家族の安全を考え、別々に暮らすことになった長男は会社を辞め、失業保険でしのいだ。
市川さんも仕事を再開できず、現場となった自宅のローンを支払いながら、生活を切り詰めた。
「スーパーで値引きされる時間帯に弁当と惣菜を1人分買ってそれを妻と分けて食べました。基本は1日1食。洗濯機を置ける場所もなかったので、衣類は手洗い。携帯電話もWi-Fi専用にして節約しました」
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