「妻の命の値段は370万円…」  殺人事件「被害者遺族」が困窮する国・ニッポン、海外との違いは?

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「『殺した者勝ち』が通じない社会であるべき」

 こうした矛盾を回避するため、高羽さんが代表幹事を務める殺人事件被害者遺族の会「宙(そら)の会」など被害者遺族団体は、遺族への賠償を国がいったん立て替えた上で、加害者に請求する「代執行制度」の導入を求めている。

 手順としては、裁判所が命じた賠償金額を、国が税金で立て替えて被害者遺族に支払い、後に加害者や親族に請求、あるいは加害者側の土地や財産を差し押さえるという流れだ。スウェーデンなどの北欧では実施されている。

 高羽さんはこう訴える。

「要は『殺した者勝ち』が通じない社会であるべきなのです。被害者の遺族が、経済的に困窮することもあってはならない。私はどうにか一人息子を大学まで行かせることができましたが、中には厳しい遺族もいるでしょう」

事件のせいで困窮する被害者遺族も

 実際、事件のせいで困窮生活に追い込まれた被害者遺族は存在する。

 白い壁に染みついた血痕、切り裂かれたレースのカーテン、ガラスの破片、至る所に積み上がった段ボール箱や衣類……。千曲川が流れる長野県坂城町にあるその一軒家には、事件発生から3年半が経過した今も、当時の爪痕がくっきり残っていた。遺族であり、また事件直後に現場を目撃した市川武範さん(58)が、玄関口で指をさしながら言った。

「玄関のたたきにはまだ娘の血痕がうっすら残っています。あの日、娘はそこでうなだれ、呻き声を上げていました。左の側頭部には銃で撃たれた痕。次男の部屋に入ると、同じく左側頭部を撃たれた次男が倒れており、あたり一面血だまり。そしてリビングには犯人も倒れていたのです」

 市川さんの自宅で2020年5月26日深夜、長女の杏菜さん(22)=当時=と次男で高校1年生の直人さん(16)=当時=が、面識のない暴力団組員の男(35)=当時=に拳銃で撃たれて死亡した。男は直後に自殺したとみられる。

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