「妻の命の値段は370万円…」 殺人事件「被害者遺族」が困窮する国・ニッポン、海外との違いは?
政府は「お金は出すけど責任は持ちたくない」
世界的にみると、犯罪被害者に対する補償制度を最初に作ったのはニュージーランドで、1964年だった。これに続いて70年代半ばまでに、欧米約40カ国が競うようにして補償制度を導入した。ところが日本は81年と出遅れた。しかも「補償」ではなく「一時金」だ。諸澤氏が続ける。
「日本社会は『補償』という言葉が苦手なのです。責任を伴う感覚があるからでしょう。『お金は出すけど責任は持ちたくない』というのが日本政府の従来からの姿勢。やはり給付金法は廃案にして、あるべき被害者補償法を作った方がいい。今や国際的なスタンダードになっている、被害者や遺族が落ち着いた生活を取り戻すまでの継続的支援に政府や各自治体が責任を負わなければならないのです」
警察庁が2022年度に各国の被害者支援制度を調査した結果によると、被害者支援にかける日本の予算は総額約10億円なのに対し、米国は約380億円と30倍以上の開きがある。英国は約214億円、ドイツが最高の約478億円など各国とも日本とは桁が違う。これは日本の制度が支給対象者を「遺族」、「重傷病」、「障害」の三つに限定し、受給者の人数が著しく少ないためで、被害者1人当たりの平均でみると日本は350万円と最も高い。
では、被害者支援は額の問題なのか。仮に給付金の平均額を自賠責保険と同水準に引き上げさえすれば、遺族は納得するのだろうか。
「紙切れ」同然の判決文
その問いを考える上で、忘れてはならない視点がある。それは加害者からの「償い」だ。高羽さんが語気を強める。
「給付金を増額すればいいという単純な問題ではない。犯人に求償できないし、それだと反省も謝罪もしない。だったら民事裁判で賠償判決を勝ち取り、その支払い責任から逃げられないような制度を作るべきです」
殺人事件の被害者遺族の中には、刑事裁判と並行し、犯人に損害賠償を請求する民事裁判を起こす人が少なくない。彼らが求めているのはお金ではなく、犯人からの誠意や謝罪、あるいは償いだ。しかし賠償判決を勝ち取っても、犯人から「支払い能力がない」と言われれば、裁判所は支払いに応じるような働きかけはしない。その規定がないためだ。原告は判決の強制執行を申し立てることも可能だが、結局は被告に財産がなければ回収できない。
日本弁護士連合会が2018年に実施した調査によると、被害者に支払われた金額は、裁判などで認められた賠償額のうち、殺人事件で平均13・3%だった。
賠償金がほとんど支払われない現実。これでは判決文はただの「紙切れ」同然で、一体、何のための裁判なのか。
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