病んだ妻を尻目に 我が家の食卓にやって来る不倫相手…62歳夫が彼女を止められない特殊事情とは

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「社長も専務も雰囲気がおかしいから」

 結婚も仕事も、すでに自分は人生の終盤にいるのだと友一朗さんは思うようになった。妻との仲が崩壊したわけではなかったが、「やっぱり他人なんだ」としみじみ感じたという。そんなとき声をかけてくれたのが、会社で事務をとってくれている秋恵さんだった。彼とは20歳年が離れていて当時30代後半だったが、若く見えるかわいいタイプの女性だ。すでに10年ほど勤めており、社の庶務をすべて仕切ってくれていた。

「一度は結婚するので退社しますと言ったことがあるんですが、それが破局、その後は仕事に精を出してくれていました。彼女が結婚しないとわかったとき、社員みんなで宴会をしたんですよ。彼女に元気を出してもらうために。みんな一発芸をしたり手品を披露してくれたり、いろいろがんばってくれた。彼女は泣きながら喜んでいました。最後に『結婚がダメになってよかったでーす』なんて叫んだりしていました。その社員が拒まない限り、何かあったら何でも言ってほしい、みんなで解決していこうという社風だったんです。それは義父の功績なんでしょうね」

 だからこそ、秋恵さんは先代が亡くなって社風が変わるのは嫌だと友一朗さんに訴えてきた。「社長も専務も雰囲気がおかしいから」と彼女は言った。

「秋恵が会社を愛してくれているのがうれしかった。同時に、会社のことを考えられなくなっている妻に少し苛立ちを覚えました。僕のことはいい、会社のことは考えてほしいと言いましたが、生返事でしたね」

 友一朗さんは、子どもも巣立ったし、帰宅しても妻と以前のような関係には戻れないと感じ、ときどき飲み歩くようになった。もともとひとりで飲み歩くタイプではないし、酒も強くなかった。だが飲まずにはいられなかった。

「ある日、会社近くのバーに行ったら秋恵がいたんです。社長はお酒を飲まないと思っていたけど、飲むんですねと喜んでくれて一緒に飲みました。かなり酔って彼女に愚痴を言ったりしたみたいですが、彼女は翌日会社でも僕と飲んだことは言わなかった。数日後、またそのバーで会って……。そうこうしているうちに今度食事に行こうということなって、何度か食事に行って送っていったら彼女の部屋に上がることになって……」

 友一朗さん、急に歯切れが悪くなる。つまりは秋恵さんと男女の関係になってしまったのだという。そうなってから、彼は会社でもついドギマギしていたが、秋恵さんは何一つ変わらなかった。むしろ前より落ち着いているほどだった。

「お見舞いに来たんです」

 コロナ禍に入ったころ、ずっと心身ともに低空飛行だった貴子さんが、さらに調子を崩していった。どこが悪いというわけではなかったのだが、「人生に疲れた」とつぶやくようになった。

「さすがに心配で心療内科なども受診したんですが、軽いうつ状態としか診断されなくて。更年期でもあったから、少しゆっくりすると彼女自身もがんばることをやめました。そんな話をしたら、ある週末、秋恵が自宅にやって来たんです。さすがにドキッとしましたが、彼女は『専務、大丈夫ですか。最近、会社でお見かけしないからお見舞いに来たんです』って。妻は喜んでいました。秋恵は家の中を掃除したり、食事まで作ってくれたり。『社長だけじゃどうしても行き届かないところがあると思ってお手伝いに来たので、何でも言いつけてくださいね』と明るく声をかけている。夫婦だけで住んでいるところへ不倫相手が来ているわけですよ。生きた心地がしませんでした」

 秋恵さんにこっそり「何やってるんだ」と言ったら、「私は長く専務にはお世話になっているから、少しでもご恩返しがしたいだけ」としれっと返してきた。帰り際、彼女は玄関先で友一朗さんの首に手を回してキスをした。

「しかも妻は彼女が来るのを楽しみにするようになった。秋恵は妻が好みそうな本や雑誌などを持ってきたり、スマホで流行っているゲームを教えたりもしていた。料理が趣味というだけあって、秋恵の料理はおいしかった。たまにスイーツも作ってくれました。貴子もだんだんよくなってきて、一緒にケーキを焼いていたことがあって、僕はリビングから、キッチンで妻と恋人が並んでいるのを見て、なんとも言いようのない気持ちになりました」

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