僕の貯金に手をつけた母、その虚し過ぎる使い道… アラ還社長が会社の年下女性に「人並の幸せ」を脅かされるまで

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 ドラマ『泥濘の食卓』が話題になっている。スーパーの店長を務める中年男性が二回りも下のパートで働く独身女性と不倫関係に陥る。彼女は悪気なく、純粋に店長を助けるためにメンタルを病んだ妻に近づき、不登校気味の息子とも親しくなっていく……。妻は夫とその女性が不倫をしているとはまったく知らず、息子は気づいているが彼自身がその彼女に恋心を抱いてしまう。泥濘どころか泥沼である。

「内容は少し知っていますが、あのドラマはとても観られません」

 そう言うのは堀田友一朗さん(62歳・仮名=以下同)だ。友一朗さんは高校を卒業すると建設関係の会社に就職した。愚直なまでに一生懸命、誠実に働く。それが彼のポリシーだと周囲には受け止められていたが、「それしかできなかった。他に取り柄がないから」と彼は照れくさそうに笑った。

 26歳のとき、上司から見合いを勧められた。相手は同業他社の社長の娘だった。

「社長は現場で会うとよく声をかけてくれました。僕みたいな人間のどこが気に入ったのかわからないけど、家に呼んでもらって食事をごちそうになったことも何度もありました。社長の次女が僕を気に入ったとかで、今さら見合いでもないけど、ふたりで会ってみたらどうかと言われて……」

“3つ揃った”父親

 恋愛には疎かった。そもそも実家はあまり裕福ではなかったから、彼は高校を出たらすぐ働こうと決めていた。すぐ下の妹は優秀だったから大学に行かせてやりたかったし、その下の弟も希望するなら大学へ進学させたかった。

「オヤジが悪いんですよ。ギャンブルに酒に女、3つ揃ったヤツだった。母親が、実の両親がやっていた食堂を継いで切り盛りしていたけど、そのレジからお金を奪ってギャンブルに行くようなヤツでしたから。僕が高校に入ったころ、母親を説得して離婚させたんです。僕は高校を出たら働くけど、妹と弟は大学に行かせたかったので」

 おふくろもその気があるなら、あんなヤツとは離婚してほしいと、彼は必死で訴えた。母が我慢しているとわかっていたからだ。

「あんたがそう言うなら、もういいねと母は離婚届を父に突きつけました。父は暴れまくりましたが、僕が力尽くで追い出し、親戚から借りたお金で引っ越しました。父もしらふだと自分がダメ男だとわかっているんですが、飲むと気が大きくなったり粗暴になったりする。引っ越し先は誰にも言わなかったから、父は探そうにもどうしたらいいかわからなかったようです」

 それぞれの望み通り、妹を大学へ、弟は専門学校へ進んだ。母は食堂を畳んで、近所の惣菜屋でパートを始めた。家族のために尽くしてきた彼だが、少し解放されたのが26歳のときだったのだ。

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