苦悩の在日ロシア人と、憤怒のウクライナ人 日本で繰り広げられる「もうひとつの戦争」に迫る

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「いくらもらってるの?」

 デモでは、コリ氏に対し、あるロシア人女性参加者が、

「(ロシア政府関係者から)いくらもらってるの? 千円? 2千円?」

 と強い口調で返す場面も。

 参加者の一人、ロシア人のユリア氏は言う。

「在日ウクライナ人たちは、日本で怒りをぶつける相手がいない。毎日つらいニュースが流れてきて、ロシア全国民に対して怒りを抱くのは当然。その感情をぶつけられる対象は、少なくとも日本では私たちのような、表に出るロシア人しかいない。仕方のないことだと思う」

 そう理解を示すが、ウクライナ人の中にも、

「僕はウクライナ人で、侵攻には当然反対だ。でもロシア人がこうした活動をすること自体は歓迎したいと思っている」

 との声はある。

親プーチン派のロシア人と激論を

 2019年に来日したセルギー氏は、旧ソ連兵の役として邦画に出演したことがあり、普段は関東近郊で保育士として働いている。ジョークを飛ばしながら無邪気に話す彼だが、毎週末オンラインで開かれる親プーチン派の在日ロシア人らによるオンラインミーティングに唯一のウクライナ人として参加し、プーチン政権の問題について激論を戦わせている。そこで得たものは何か。

「参加者には大学教授のような教養のある人もいるが、みんな政府のプロパガンダを信じ、欧米諸国を批判している。僕が反論したところで彼らの政治的見解は変わらないが、それでも一人のウクライナ人として意見を交わせる貴重な機会だ。ウクライナの話題になったときは、ロシアメディア以外の報道内容や自分が聞いた現地の声などを踏まえて議論している」

「一刻も早くウクライナ侵攻が終わってほしい」

 この思いは、デモに参加するロシア人、ウクライナ人双方が願うことだ。しかし、戦場はもちろんのこと、8千キロ離れたここ日本でも両者の心はすれ違い、容易に相容れることはない。遠い異国で繰り広げられる「もうひとつのウクライナ戦争」は、改めて戦争のもたらす“断絶”の大きさをわれわれに示しているのだ。

鈴木美優(すずきみゆ)
ジャーナリスト。1990年、静岡県生まれ。横浜市立大学在学中に内戦下のシリアで反体制派や難民を中心に取材を行った。以後もシリアやイラク、反中デモ下の香港など、動乱の地で取材を続けている。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

特別読物「対プーチン『反戦集会』に『茶番だ!』とカウンターデモ 苦悩の『在日ロシア人』憤怒の『ウクライナ人』が語るもうひとつの『露ウ戦争』」より

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