苦悩の在日ロシア人と、憤怒のウクライナ人 日本で繰り広げられる「もうひとつの戦争」に迫る
ランダムに職務質問され…
南部出身のサーシャ氏(30)=仮名=もまた、こうしたデモに参加する一人だ。ウクライナ侵攻が始まった直後ブラジルへ渡航。もともと日本語を2年ほど勉強していたことから、今年6月に日本へ移住した。
高身長で、ブロンドヘアに黒のV系ファッションがお似合いの彼女は、都内を歩いていてもひときわ目立つ風貌だ。現在はラーメン屋チェーンでのバイトで生活費を稼ぎながら日本語学校に通う日々を送っているが、客からロシア政府について批判の言葉を向けられることもあるという。
サーシャ氏が反戦デモに参加した背景には、家族の事情がある。ウクライナ侵攻が始まった翌月の昨年3月、22歳の弟のもとに徴兵令状が届いた。封筒を開きもせず捨ててしまったが、今年の4月以降はインターネットから召集できるようになり、その後も徴兵令状は届き続けているという。
「弟も連れて逃げたかったけど、彼はまだパスポートを持っていない。パスポートを申請しに行けば、徴兵令状を無視して国外に脱出しようとしていることがばれてしまう。だから私だけで来るしかなかった」
ロシアでは、警察からランダムに職務質問され、召集命令に応じていないことが発覚するケースもある。その場合は問答無用で戦場行きだ。弟はその恐怖もあり、なるべく外を出歩かないようにしているという。
自主退職という名目で…
サーシャ氏は、ロシアを出国後も弟とは頻繁にやり取りをしているが、弟が今この瞬間にも戦地に送られてしまうのではないかと不安を抱く日々だ。
「誰も負け戦に参加したくない。ロシアが負けることは目に見えているから。ロシアはこの戦争で、数え切れないほどの命を無駄にしてきた。弟をその一人にしたくない」
一方、電気技師として潜水艦関連会社に勤める兄は今年、上司からサーシャ氏の居場所や電話番号を提示するよう命じられた。しばらく疎遠だとうそをついて報告しなかった兄は、自主退職という名目で事実上解雇されたという。はっきりとした理由は知らされていないが、会社の全社員に対して徴兵令状が出たのではないかと推測している。
「弟だけでなく兄も戦争に送られるのではないかと不安が絶えない」
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