苦悩の在日ロシア人と、憤怒のウクライナ人 日本で繰り広げられる「もうひとつの戦争」に迫る

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私服警官が家に…

 だが2019年、マリカ氏はついに拘束された。携帯電話や身分証を没収されてから警察車両に乗せられたときには、恐怖と不安で何も考えられなかったという。だがこの拘束は脅しのようなもので、大勢が一度に拘束されたため警察も全員から話を聞く暇がなく、2時間ほどで解放された。

 2度目の拘束は昨年3月6日、ウクライナ侵攻が始まった後だった。モスクワでは反戦デモが毎週のように行われていたが、参加者よりも警察の数の方が圧倒的に多く、包囲されたら逃げ場がなかった。この日は、56市町村で計4300人が拘束され、マリカ氏もその一人に。数人の警官による取り調べの末、翌日に解放されたものの、1万5千ルーブル(約2万7千円)の罰金支払いが命じられた。

 それから約2カ月後、自宅で恋人とご飯を作っていると玄関のドアをたたく音がした。口をつぐみドアスコープからそっと外の様子を見ると、黒い服の男性2人が立っていた。私服警官だと感づいた彼女は、家の中で音を立てないようじっと待った。警官はより強くドアをたたき始め、マリカ氏の名前を何度も呼んだが、やがて諦めて今度は隣近所のドアをノックし始めた。誰かがドアを開けると、警官が質問するのが聞こえた。

「隣に住んでいるのはマリカか? 今どこにいるか知っているか?」

「何かマリカについて知っていることはあるか?」

 警官は住民にそう尋ねるも、幸い隣近所とは接点がなかったため誰も彼女のことは知らなかった。恐怖で動けなくなり、一刻も早くロシアを脱出しなければと出国の準備を始めた。

デモとは別の形での“抵抗”

 その後マリカ氏は、一人でアルメニアやセルビア、タイなど9カ国を転々とし、今年4月に来日。そんな経験をしたゆえに、各国でデモに参加している。

「少しでも多くの人に私たちはプーチンとは違うんだと伝えたい」

 日本語学校に通いながら就職や進学を考えてきたが、大学の学位取得の関係でやむを得ず現在は帰国。

 再び拘束される恐れがあることからデモ活動には参加できていないものの、現在は政治問題を題材にしたドキュメンタリー映画の撮影に携わり、別の形での“抵抗”を続けているという。

「国内の芸術家や著名人が次々と出国していく中、ロシアに残って国民の葛藤や苦悩を伝えることを選んだ人もいる。今はこうした人々を支えながらロシアの自由のための運動を続けたいと思っている」

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