空襲警報が鳴っても平然と買い物…戦場から20kmの町で聞いた市民の本音【ウクライナ最前線リポート】

国際

  • ブックマーク

「戦争は誰にとっても恐怖です」

 町の平静さとともに印象的なのが、いわゆる戦意高揚ムードの乏しさだ。都市のメインストリートや幹線道路沿いには、お菓子や化粧品の商品宣伝とならんで戦争遂行への支持を呼び掛ける掲示板を見かけるが、そのアピールに激烈な調子のものはほとんどない。

「戦争は誰にとっても恐怖です。私にとっても」

 これが国防省の掲示板に大きく書かれた標語だ。ロシア軍に連戦連勝した猛将、パブロ・パリサ大佐の言葉だという。下の方に小さい文字で「恐怖を認めるには勇気がいります。私たちには勇気が必要です」とある。

 ロシアが囚人までかき集めて消耗品のように戦場に投入しているのに対して、ウクライナではふつうの市民感情に沿って戦争への協力を訴え、それに応えて多くの国民が祖国防衛に進んで参加している。私はそこに戦争を日常として生きるウクライナ社会のたくましさを感じた。

 今年6月からウクライナが開始した反転攻勢は、冬を前に戦線が膠着、大きな前進が見られない。これをどう思うかと市民に尋ねると、若い女性が冷静に答えた。

「私たちは家族を兵士として前線に出しています。戦闘は兵士の命と引き換えなので、無理をしなくていいのです。焦ってはいません」

 ウクライナは、市民の強い抗戦意志に根差して、しなやかに戦い続けている。

高世 仁(たかせ・ひとし)
ジャーナリスト。著書に『拉致-北朝鮮の国家犯罪』(講談社)、『チェルノブイリの今:フクシマへの教訓』(旬報社)などがある。2022年11月下旬にはアフガニスタンを取材した。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

  • ブックマーク

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。