空襲警報が鳴っても平然と買い物…戦場から20kmの町で聞いた市民の本音【ウクライナ最前線リポート】
ウクライナは戦争に「慣れて」しまったのか
ウクライナは旧ソ連・東欧圏のなかでは経済的な停滞が顕著で、ロシア侵攻時の国民の所得水準は1991年の独立時を下回っていた。ロシア侵攻でウクライナ経済はさらに大きなダメージを受け、昨年の国内総生産(GDP)は前年から30%以上減少している。戦争で被害を受けた企業や個人に対する政府からの支援はわずかで、生活苦を抱える国民は少なくない。
ロシアとの激戦が交わされているドネツクでは、州全体で酒類の販売、提供が禁止され、午後9時以降の夜間外出禁止令が発令されている。ただ、時間制限があるとはいえ、レストランやカフェは営業しており、コンサートや映画を楽しむこともできる。
スーパーマーケットに入っても品不足は感じられない。公園のベンチで日向ぼっこをしながらくつろぐ市民や朝のバス停で列をつくる通勤者をみていると、ごくふつうの平和な町のようだ。撮影する私のそばを、結婚式の車列がにぎやかに通り過ぎて行った。
同行した友人のジャーナリスト、遠藤正雄さんは昨年のロシア侵攻直後にウクライナを取材しているが、変貌ぶりに驚くという。
「あの時は国全体がピリピリしていて、商店はみな閉まり、人々は引きつったような表情を浮かべていました。今は大きく変わりましたね。戦争に『慣れた』のでしょうか」
長期化する戦争を支えるには経済を回す必要が
「戦争慣れ」を実感したのは、ミサイルで破壊された中心街のショッピングモールを撮影していた時のこと。突然、空襲警報が鳴り始めた。すぐ前の歩道には空襲用のシェルターが用意されてある。飛び込もうかと身構えたが、まわりの人たちは誰も動じず避難もしない。サイレンが鳴り響いた数分間、人々は何事もないかのように買い物を続け、道路上の自動車は止まることなく動いていた。
ウクライナ政府もまた、社会をできるだけ平時の状態に近づけることを奨励している。長期化する戦争を支えるには経済を回すことが不可欠だからだ。
ビジネスを起こし納税することで戦争遂行に貢献したいと考える若者も増えており、侵攻開始前の起業件数は毎月2万件台だったのが、今年春ごろから増え始め、6月は3万1477件に達したという。今年1~8月の月平均起業件数は約2万4000件で、廃業の約1万7000件を大きく上回っている。
インフレ率は去年が26%、今年が8.6%で、戦時中にしては落ち着いていると言っていいだろう。ウクライナ社会には、戦時に見られがちなパニック的な要素は感じられない。
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