「10代の頃のように遊び、大人としての悩みを抱えて過ごした」ハワイでの日々 小説家・深沢仁が明かす

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初めての「車で遠いところに連れ出してくれる友人」

 2020年『この夏のこともどうせ忘れる』で高校生が選ぶ天竜文学賞を受賞した、小説家の深沢仁さん。近著『眠れない夜にみる夢は』も話題の彼女が音楽とともに思い出す、ハワイでの「逃避と現実の境目のような日々」とは――。

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 記憶と密接に結びついているのは、私の場合、匂いではなくて音楽だ。特に高校生のとき、アメリカ留学中に出会った友人Rとの思い出には、自分でも驚くほど鮮明に、BGMがいっしょに浮かぶ。これは私にとって、彼女が初めての「車で遠いところに連れ出してくれる友人」だったからかもしれない(米国では大半の州で16歳から免許を取得できる)。放課後や週末、彼女の運転する車の助手席に乗って、大音量で音楽をかけながら広大な土地を爆走するのはまさしく洋画の世界そのもので、自分がその中にいることが、当時の私はしばしば信じられなくなった。

ホラー映画の舞台になりそうな平屋

「夫の仕事でハワイに引っ越したから、ちかいうちに遊びにきて。いくらでもいていいから」

 幸運にも私の帰国後も友情の続いている彼女から、そう誘われたのは5年前のことだ。ちょうどバイトを辞めるタイミングだった私はその話に乗った。ハワイには、実のところ、そう興味があったわけでもない。きらきらした観光地というイメージに苦手意識があった。でも彼女に会いたかったし、原稿に行き詰まっていたから、どこにでも飛んでいきたい気分だった。

 ガイドブックも持たず、ハワイ島のヒロ側だから、オアフ島よりもローカル感が強いらしいという知識だけで向かった。着いてみると、夫婦と一匹のコーギー犬が暮らすのは樹林に囲まれた平屋で、ホラー映画の舞台にでもなりそうなほど俗世から距離があった。しかも私は、彼らとは別の平屋を、一人で貸し切って使ってよかった。

 あそこで暮らした3週間は、あらゆる意味で特別だった。

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