作家・相川英輔が「意図的にぼんやり読書する」理由 電子書籍リーダーのおかげで入浴中が一日でもっとも幸せな時間に
意図的にぼんやり読む
当初は「それではいけない」とマーカー機能を駆使したり、洗面所にノートを置いて風呂から上がるなりメモを取るなどしていたけれど、そういった行為はほどなくやめた。わたしは物語を紡ぐ創作者なので、ヒントとなる文章を見つけても丸ごとそのまま引用することは基本的にできないし、したくもない。そこに書かれているエッセンスや魂のようなものを感じ取ることが重要なのだ。料理に例えるなら、レシピを細部までしっかり確認して忠実に作るか、調理前の素材を見て「自分ならどう作るか」と想像力を駆使することの違いのようなものだ。料理であれば前者でもおいしいものが出来上がるだろうが、小説はそうもいかない。誰かの模倣をしても面白い作品は生みだせない。そういったわけで、今は読んだときの感触だけを胸の内に残すよう、意図的にぼんやりと読むようにしている。
今年刊行した『黄金蝶を追って』は、恐れ多いことにケン・リュウやサラ・ピンスカーと通底すると評価いただいたりもしているが、たしかに両者とも入浴中に読んだ記憶がある。だが、ぼんやり読書なので細かいストーリーは覚えていなくて、「素晴らしい作品だった」という印象だけが心に残っている。
ついでに、長風呂のおかげで血流が良くなり、睡眠の質が上がるという思いがけない副次効果も得られた。これからも電子書籍リーダーにはお世話になりそうだ。
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