世界三大ギタリスト「ジェフ・ベックさん」、挑戦を続けたレジェンドは“ベジタリアン”で“親日家”【2023年墓碑銘】
長く厳しい“コロナ禍”が明け、街がかつてのにぎわいを取り戻した2023年。侍ジャパンのWBC制覇に胸を高鳴らせつつ、世界が新たな“戦争の時代”に突入したことを実感せざるを得ない一年だった。そんな今年も、数多くの著名人がこの世を去っている。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の悲喜こもごもを余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた歩みを振り返ることで、故人をしのびたい。
(「週刊新潮」2023年1月26日号掲載の内容です)
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“ギタリストには二種類しかいない。ジェフ・ベックか、ジェフ・ベック以外だ”とまで称賛された。日本でも1960年代後半以来、彼は注目の的になる。
ハードロック、ヘヴィメタルの専門誌「BURRN!」編集長の広瀬和生さんは言う。
「天才ギタリストの中でも別格の存在。エレキギターで何ができるかを追求し続けました。世界のギタリストは必ずベックの影響を受けています。とはいえ、まねができない。広い分野の音楽に通じ、技術、表現力がともにずば抜けている。その実力にも、高みに達しながら名声に安住せずギターと向き合う姿勢にも、誰も追いつけませんでした」
エンターテイナーというより職人気質を感じさせた。
音楽評論家の増渕英紀さんも振り返る。
「超絶的技巧があるのにこれ見よがしな演奏はしない。譜面では表現しきれないような微妙なニュアンスを織り込めた。それが聴く人の感情にしっかり伝わる。音の天才的な表現者でした」
44年、ロンドン郊外生まれ。父は会計士、母はチョコレート工場に勤務。ピアノを習うが興味を持てず、ギターを手作りした。車の修理工場などで働きながらギターを続けた。
初の来日公演は大盛況
同じくイギリス出身のエリック・クラプトン、ジミー・ペイジとともに「世界三大ギタリスト」と称されるが、全員がバンド「ヤードバーズ」に属した経験がある。65年、クラプトンの脱退後ベックさんが加入。
エレキギターで生じるノイズを音として生かすフィードバック奏法や、インドの楽器シタールの音をギターで表現したことで反響を呼ぶが、翌66年に脱退。自身が中心となり、ボーカルにロッド・スチュワートを迎えてバンドを結成するも、作品は評価されながらメンバーの交代が激しかった。
「バンド全体をまとめるようなことは得意ではありませんでした」(増渕さん)
73年、新結成した「ベック・ボガート&アピス」での初の来日公演は大盛況。75年に発表したインストゥルメンタルのアルバム「ブロウ・バイ・ブロウ」は、ロックとジャズが反応したフュージョンとして絶賛された。
「売れると同じスタイルの音楽を作りがちになるものですが、新しいことに挑み続けた」(増渕さん)
クラシックやテクノなどにも関心の赴くまま縦横無尽。三大ギタリストでもひたすらブルースを極めたクラプトンとは様子が異なる。作品に一貫性がなくバラバラだと評されたこともある。
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