来客時の見送りは必要? 格闘家・青木真也と語った、日本社会に巣食う「謎ルール」(中川淳一郎)

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 先日私の新著『日本をダサくした「空気」 怒りと希望の日本人論』(徳間書店)の刊行イベントで、格闘家の青木真也さんと対談したのですが、同氏が実に合理主義かつ正直で一緒に喋っていて本当に楽しかったです。同氏も『空気を読んではいけない』(幻冬舎)という本を書いており、今回は「空気読まないコンビ」でトークが弾んだのでした。

 テーマは「空気を読むのは面倒くさい」に始まり、ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦、「有名になりたくねぇ」から野グソの話にもなりました。

 そりゃあ有名になった方がお金が稼げるからいいじゃん、チヤホヤされていいじゃん、と思うかもしれませんが、両方を達成してしまうとどうでもよくなるそう。さらには、顔も本名も割れているため、マッチングアプリが使えないことも悔しいと青木さんは言います。有名でない人々がマッチングアプリを活用して楽しく出会いを獲得している中、自分は指をくわえてグヌヌヌヌとやっているだけなのがイヤなのだとか。

 こうしたことから話は「世界の盗塁王」こと福本豊氏が国民栄誉賞を辞退した件に移ります。辞退理由は「立小便ができなくなる」というものです。ここからようやく野グソにつながるのです。

「僕、野グソしますよ」

「えっ? なんでですか?」

「だって我慢できないことってあるじゃないですか」

「そりゃそうですが、大都会でも野グソできるんですか?」

「はい、そういったスポットは各地で押さえています」

 大都会であれば公衆便所は豊富だからあえて野グソをする必要はないとは思ったものの、さすがは空気を読まない男。一応同氏の名誉のために言っておくと本当に切羽詰まった時にやったことがあり、以後、野グソスポットをキチンと把握するようにした、ということです。毎日やってるわけではありません。

 さらには日本に巣くう「謎ルール」にも話は及びました。会社に来客があった時はエレベーターホールまで送っていき、ドアが開いたら客がエレベーターに入り、見送る側がホールで深々と頭を下げ、客も同様にする。ドアが閉まったところでようやく頭を上げる。コレって本当に双方にとって苦痛なんじゃないですかね。別にエレベーターホールまで送ってもらわなくてもいいし、頭を下げないでもいい。でもやめられないとまらない日本のビジネス謎マナー。

 そして、当初の段取りになかった話題が骨折についてです。私は上腕骨をスッパーンと折ってしまったのですが、青木さんは「その折れ方はヤバい。とんでもないひねりが加わって猛烈な力がかからなくては折れないし、上腕より細い尺骨(下腕小指側)と比べて痛さが地獄レベル! よく耐えましたね~」と驚くことしきり。さすがは日常的に骨折話が飛び交う世界にいる男、修羅場を経験している。

 そんな青木さんから聞いたのが、新幹線で刃物男が暴れて1人死亡、2人重軽傷という2018年の事件について。刃物男に勝つ術はあるか尋ねたらただ一言。「無理です。逃げましょう」。いくら世界有数の格闘家でもそう言います。刃物を持ったヤツがいたら絶対に勝てないそうです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

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