「誰もが人工衛星のように軌道に乗って生きている」 JAXA研究員の久保勇貴が上京して感じた東京の特殊性

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お金を払わなければ、寝る場所も足を休める場所も…

「そんなもん、公園で飲んだら100円やで」中学生の頃、よく友達と交わしたセリフだった。大人たちは、コーヒー1杯に500円を払ってでも、喫茶店に入りたがった。学校に行けば自分の机が用意されていた頃、お小遣いを消費しなくても自宅に寝床があった頃、自分がその場に存在するためだけにお金を払うなんてことは腑に落ちなかった。大学から上京して一人暮らしを始めて、ようやくその意味が分かった。大学には僕だけが使っていい机は一つもなかった。お金を払わなければ、街には寝る場所も、ただぼーっと足を休める場所もなかった。僕にとって東京とはそういう街だった。

 健康な成人男性は、その気になれば子供に致命的な危害を加え得る腕力を持っているから、凶器になりそうな缶コーヒーを持って昼下がりの公園に気軽に入ることはできない。プルトップを開け、缶内から少量のジェットを噴かせた反動で歩き出す。ポケットの中の通信機は、もうずっと鳴っていない。公園の周りをぐるぐる周回しながら、僕は地球低軌道を漂う宇宙ごみのようだった。

久保勇貴(くぼ・ゆうき)
1994年、福岡県生まれ。JAXA宇宙科学研究所研究員。2023年3月初のエッセイ集『ワンルームから宇宙をのぞく』を刊行。

デイリー新潮編集部

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