奈良時代の人は派手好きだった? 夜間拝観の「下品なイルミネーション」は意外と正解か(古市憲寿)

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 毎年、正倉院展の時期は奈良へ行くようにしている。正倉院には奈良時代の宝物が多数保管されるが、公開は年に1度の虫干しの時期だけ。9千点から厳選された60点ほどがうやうやしく展示される。しかも一度出陳された宝物は、その後10年間は公開しないという不文律がある。「人気作」は限られているが、見逃すと生涯お目にかかれない宝物もあると思って、ついファンは毎年通ってしまう。

 とはいえガラス系の宝物など素人が見てもすごさがわからない。当時は貴重だったのだろうが、現代ではユザワヤあたりで買えそうな気がしてしまう。

 一方で今年の目玉、楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)など夜光貝や鮑を用いた緻密な螺鈿細工の価値は時代を超えているように思えた。本当に21世紀でも通用するのか、ハリー・ウィンストンやヴァンクリのジュエリーと並べてみたいところである。

 夜は薬師寺と唐招提寺の夜間特別拝観へ行ってきた。本物のろうそくを使ったシンプルなライトアップが非常によかった。

 紅葉の時期には京都でも夜間拝観を実施する寺社が多いが、下品なイルミネーションを目にすることがある。チームラボを模倣して失敗したようなプロジェクションマッピングやイルミネーションを見かけると「そんなことしなくていいのに」と思ってしまう。色とりどりの光や音のショーは、さながら場末のキャバレーのようだ。

 装飾の基本だが、多色使いというのは相当のセンスを必要とする。たとえば部屋をおしゃれにしたい場合、一番簡単なのは白か黒で統一すること。色数を抑えれば、それだけでスタイリッシュに見える。「モノトーンでおしゃれ」は比較的簡単だが「カラフルでおしゃれ」というのは非常に難しい。

 われわれが古都の寺社や仏像に風情を感じるのも、色数が少ないことが一つの理由だろう。多くの寺社や仏像は茶色や黒系統の地味な色をしている。

 だが昔の奈良はもっと華やかだった。建立当初、奈良の大仏は金ピカだったし、「天平の美少年」といわれる阿修羅像も真っ赤だった。現代人からすると「中華風」とも「インド風」とも思える色彩感覚である。

 当然の話で、奈良時代の人々にとって中国は憧れの国だった。わざわざ大陸から呼び寄せた僧侶が、天皇や皇后に授戒をしている。受戒一番乗りが聖武天皇だが、まさに正倉院の宝物の多くはその聖武天皇ゆかりの品だ。1300年を経てすっかり色あせてしまったが、正倉院展の品々もかつては華やかな色だったはずだ。

 そう考えると、実はさっき皮肉ったばかりの下品なプロジェクションマッピングの方が、往時の世界観を現代に伝えているのかもしれない。奈良時代の人々は、モノトーンで地味なものよりも、派手で華やかなものを好んだ。もしも彼らが現代にタイムスリップしてきたら、派手なイルミネーションを喜ぶだろう。いや、それよりもユニバーサル・スタジオ・ジャパンのショーに興奮しそうだな。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年12月7日号掲載

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