「全て嫌になった」と言い出した妻、そして突然消えた不倫相手…「結婚と恋愛は別」と言って結婚した42歳夫の苦悩

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「何だったんだ、この関係は」

 虚しかった。この10年間は何だったのか。思わず春佳さんに連絡したが、連絡がつかない。電話もSNSのメッセージもメールもつながらない。彼は焦った。

「正月明けに経営しているほうの会社に行ったら、春佳の兄である同僚がいきなり辞めていたんです。会社に置き手紙ひとつ残して。その後、春佳からの僕宛の手紙が会社に届きました。春佳は、血のつながらない兄と恋人関係だったと。衝撃でした。でも 一時期は兄妹として育っていたのだから、それはいけないことだと思っていた。でも離れようとしても、やはり離れることはできない。同僚は結婚していて離婚するわけにもいかなかった。でも妻に義妹との関係がバレて、とうとうふたりは駆け落ちしてしまったんです。ごめんなさい、知久さんには本当の愛をもらったと感じている。でも私は兄を見捨てられないって」

 またしても「何だったんだ、この関係は」と感じさせられたと知久さんは言う。起業した会社の他の社員は、春佳さんを巡る同僚と知久さんの関係を知らない。ひとり減った分を誰がどうやってカバーしていくか、目先の問題が山積していた。

「そのあたりは僕がカバーしていくと伝えました。妻との問題もあって、なんだか稼ぐことにあまり価値が見いだせなくなっていたこともあり、外資系の勤務先は退職しました。いろんなことを整理しなければいけないと追いつめられていった」

すべてを失って

 そして春先、妻はいきなり娘を連れて実家に帰ってしまった。急にひとりになった知久さんは、奈那さんに久しぶりに連絡をとってみた。それでわかったのは、妻に春佳さんとの関係を密告したのは奈那さんだということだ。

「そんな予感はありました。頭に来て、オレもきみの夫に浮気をバラしてやると言ったら、『どうぞ』と言われました。奈那のところは本当に対等な関係で、お互いの浮気くらいではビクともしないと」

 妻の祐貴子さんの実家に連絡をとると父親が出て「きみががんばってくれたのはわかるけど、祐貴子はもっと温かい家庭を作りたかったと言ってる」と。もともと結婚時点で約束していたことを破ったのは祐貴子のほうだと彼は思ったが、それを義父にぶつけるわけにはいかなかった。

 離婚は避けるように娘には伝えておくと義父は言ったが、祐貴子さんからの連絡はなかった。

「連休中、何をする気も起こらなくて家でゴロゴロしているとチャイムが鳴った。カメラを見たら娘が立っているんです。転がるように玄関を開けたら娘が『パパに会いたかった』と飛び込んできた。娘を抱きしめて泣きました」

 10歳になる娘は自分の意志で父を選んでくれたのだ。涙は止まらなかった。

「いちばん大事な人をうっかり取り違えていましたね。僕にとっては娘がいちばん大事だった。祐貴子にも戻ってきてほしいと連絡しましたが、彼女は戻ってこない。義父も、祐貴子が何を考えているのかわからないと言っていました」

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