「もの忘れはむしろ健全」「スマホに頼っても大丈夫」 脳寿命を延ばす「忘却システム」とは

ドクター新潮 ライフ

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 現代日本の“国民病”とも言うべき認知症に多くの人がおびえている。ちょっとしたもの忘れをしただけで、「ついに自分も」と落ち込んでしまう……。だが、過ぎたるは猶(なお)及ばざるがごとし。過度な心配はよくない。なにしろ、脳は「積極的に忘れる」ようにできているのだ。【岩立康男/千葉大学脳神経外科学元教授】

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 このタレント、何て名前だっけ?

 あれっていつのことだったかな?

 2階の部屋まで来たけれど、何の用があったんだっけ?

 年を重ねれば、こうした「もの忘れ」は誰もが経験するでしょう。そして人生100年時代を迎えたいま、もの忘れをした人は、こんな恐怖を覚えることが少なくないと聞きます。

 これは認知症の始まりなのではないか。この先の人生、まだまだ長いというのに……。

 そんな人に対して、脳神経外科の臨床と研究を長年行ってきた立場から、私はこう言うことにしています。

「その程度のことで認知症におびえる必要は全くありません。『もの忘れ』は脳の自然な働きなんです」

 ちょっとしたことを忘れるのは当然であり、むしろ忘れることのほうが脳にとっては健全な状態で、忘れたほうがいいとすらいえます。なぜなら、脳は「積極的に忘れる」ようにできているからです。

簡単に「認知症かも」と思う必要はない

〈「忘却のススメ」とでも言うべき、目からウロコの解説をするのは、千葉大学脳神経外科学元教授の岩立康男氏だ。

 今年3月に同大を退職し、現在、東千葉メディカルセンターのセンター長を務める岩立氏は、2017年、執筆した論文が米国脳神経外科学会の腫瘍部門年間最高賞を受賞するなど「脳研究のプロ」である。

 目下、がんを抜いて認知症が「なりたくない病気」のトップになっている。実際、2040年には65歳以上の4人に1人が認知症を患うことになると予測されている。そのため、日常生活でのささいなもの忘れでも、「ついに自分にも来たか!」と認知症を過度に恐れてしまうわけだ。

 だが、もの忘れをしたくらいで簡単に「認知症かもしれない」などと思い煩わないほうがいいと、岩立氏は言う。〉

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