【追悼・山田太一さん】「僕は視聴率を獲れる作家ではありませんよ」「大学ごときで…」 12年の取材メモで振り返る“素顔と言葉”

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唯一の大河ドラマには“分身”が

 権威や常識を鵜呑みにせず、反骨精神の塊のような人だった。これは戦争も影響している。11歳だった時に迎えた敗戦で世の中がガラリと一変したからだ。

「戦時中の先生たちは『鬼畜米英』を唱えていながら、敗戦と同時に『米国が正しい。日本が間違っていた』と様変わりした。権威や常識と言われるものを簡単に信用してはいけないと思いました」(山田さん)

 山田さんは1作だけNHK大河ドラマを書いている。菅原文太さんが主演した1980年の「獅子の時代」だ。時代設定は幕末から明治維新で、文太さんが架空の会津藩士・平沼銑次を演じた。

「文太さんが扮した平沼は反政府、反権力の塊のような男でした」(山田さん)

 鉄次は山田さんの分身でもあったのだろう。

 一方で暮らしは庶民的。会うのはいつもデパート内の喫茶店だった。ホテルのラウンジなどを指定されたことはない。すぐ近くでは主婦と思しき人たちがお茶を飲みながら歓談し、うるさいぐらいに賑やかな喫茶店だったが、気にしなかった。

 川崎での別れ際には「買い物をして帰りますから」と口にすることがあった。夕食のおかずである。夫人思いの人でもあった。

 多くの俳優たちが嘆き悲しむのはうなずける。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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