楽天・安楽の「陰湿パワハラ」に、立教大の「前歯折り事件」…日本の野球界に“暴力”が絶えない理由

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ユニフォームを脱ぐ可能性も

 シーズンオフに入ったプロ野球だが、ここへ来て衝撃的なニュースが飛び込んできた。楽天の複数の選手が、投手の安楽智大からパワーハラスメントを受けていると訴え、球団が調査を進めた結果、「概ね事実」と認定。安楽を自由契約とすることを発表したのだ。【西尾典文/野球ライター】

 12月1日付の「スポーツニッポン」によると、“概ね事実”とした「パワハラ」は、以下の通りだ。

・球場内のロッカーロームで若手選手に倒立を強要。下半身を露出させ、陰部に靴下をかぶせる
・指導目的と称して、後輩選手に「アホ」「バカ」などの暴言や人格を否定する発言
・食事の誘いを断った選手に対し、その日の深夜に執拗に電話やLINEを繰り返す
・「罰金」という名目で、一部選手に対して金銭の支払いを強要

 楽天の森井誠之球団社長ら球団関係者が11月29日に安楽に事情聴取を行い、本人がパワハラ行為を認めた。その場で、自由契約を通告したという。

 安楽は、1年秋から名門・済美のエースとなり、2年春の選抜で準優勝を果たした。その年の「夏の甲子園」に出場し、当時、“甲子園最速”となる155キロをマークして、スカウト陣の注目を集めた。

 そして、2014年。楽天からドラフト1位指名を受け、鳴り物入りで入団。2021年から3年連続で50試合以上に登板し、楽天のブルペンを支えてきた。今年は、57試合に登板、3勝2敗10ホールド、防御率3.04という活躍を見せていた。

 今後、他球団が安楽の獲得に乗り出す可能性は極めて低く、このままユニフォームを脱ぐ可能性は高い。

チーム内の雰囲気も影響

 振り返ってみると、今年は野球界の「いじめ」や「パワハラ」が問題になるケースが目立った。今年9月には、立教大野球部内での「いじめ」が発覚。上級生が下級生に暴行して怪我を負わせた。これに対して、野球部側は調査を行い、部長と監督の公式戦への活動を自粛する措置をとっている。

 立教大学によると、埼玉県新座市にある野球部の室内練習場で、上級生が下級生を仰向けに寝かせて、顔面に立てたバットを倒した。そのバットが下級生の口に当たり、前歯1本が折れた。このほか、野球部の施設内で、上級生に10代の部員が喫煙をするように言われ、実際、たばこを吸った問題も起きていた。

 楽天と立教大の問題は、いずれも内部から告発があり、事態が表面化したことで、大きな騒動となったが、このような「いじめ」や「パワハラ」、そして暴力事件は、プロ、アマ問わず毎年のように起こっている。

 どうして、この手の問題が野球界には絶えないのだろうか。過去に不祥事が起こった高校の指導者は、以下のように指摘する。

「不祥事が起きる時は、チームが上手くいっていない時が多いように思いますね。結果が出ないと、どうしてもフラストレーションがたまり、チーム内の雰囲気が悪くなる。それでも、指導者が厳しければ起こりづらいんですけど、最近は、厳しく指導すると、その行為自体が選手への『パワハラ』と受け取られることも多い」

 それに加えて、次のような背景もあるという。前出の指導者が続ける。

「部員を多く抱える高校だと、試合に出場できない選手の不満が、いじめの火種になることもありますね。(プロ野球でいえば2軍や3軍のような)BチームやCチームを作って、試合を多く行うチームが増えている。これは、選手の不満を解消する狙いがあると思います。控え選手を含めて、部員全員がチームに貢献しようという動機づけが重要だと思いますが、実際にそれをやるのは、簡単ではないですね」

 楽天は2013年以来、パ・リーグの優勝から遠ざかっており、立教大もまた東京六大学のリーグ戦で2017年の春以来、優勝できていない。いずれも結果が出ないなかで、「いじめ」や「パワハラ」を生みやすい土壌がチーム内にできていたのではないか。

主力選手が暴行するケースも

 一方、別の高校野球の指導者は、「控え選手だけはなく、主力選手が暴行するケースがある」と指摘する。

「暴行の加害者になる主力選手は、早くから周囲にチヤホヤされてきた影響が大きいですね。最近は、子どもの頃からクラブチームだけではなく、元プロ選手が指導する『野球塾』にも通っている選手が多い。そのなかから、世代別の侍ジャパンや、(NPBとNPB12球団が主催する)『12球団ジュニアトーナメント』に選出される選手が出てくる。このような選手は、本人のみならず、親も『自分の子どもは特別だ』と勘違いしていることがあります。どこかで大きな挫折をしたり、厳しく指導されたりする機会があれば良いのですが、勘違いしたまま、強豪チームで主力になる選手も出てきます。こうした選手は、どうしても周囲の選手を見下してしまう。以前、世代別の侍ジャパンのスタッフとして帯同していた指導者の方が、『あまりに尊大な態度の選手がいて、驚いた』と言っていました」

 ちなみに、“尊大な態度の選手”はその後、ドラフト1位で某球団に入団したが、期待された活躍ができずに、わずか数年でユニフォームを脱いでいる。安楽は、この選手より一軍で結果を残しているが、どこかで「自分は特別な存在だ」と勘違したままで、プロ生活を続けてしまったのかもしれない。

 プロ野球選手も、強豪チームでプレーしている学生選手も、野球をしている子ども達から見れば、“憧れの対象”だ。そんな存在が、今回のような事件を起こすことは野球の将来にとっても大きなマイナスである。野球にかかわるすべての関係者が、他人事としてとらえるのではなく、残念な暴力事件が二度と起こらないような野球界にしていくよう努めていくことを切に願いたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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