漁師一家の自宅にヒグマが侵入、冷蔵庫を荒らして…北海道・羅臼町“クマ騒動”その後 被害女性が語る「恐怖の瞬間」「昔と今の違い」

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殺到した抗議電話

 事件が発生してから多くの人に「さぞかし怖かったでしょう」と言われた。だが、クマと対峙している時は怖いと感じることはそれほどなかったという。

「あの時、もし私たちがクマを怖がると、まだ小さかった子供まで怖がってしまいます。何よりも子供を守ろうと夫婦共に必死で、怖いと感じる余裕がありませんでした。むしろクマが家から出ていった後のほうが怖かったですね。ハンターの皆さんが『この家を餌場と見なしてしまうとクマは必ず戻ってくる』と教えてくれたからです。『またクマが家に入ってきたらどうしよう』と初めて怖くなりました。それからも、夜になると恐怖を感じたり不安な状態が続きました」(鹿又さん)

 羅臼のクマ騒動は全国ニュースとして大きく報じられた。すると、今と同じように役場には「なぜ殺したんだ」という抗議の電話が殺到したという。

「私も処分されたクマを見た時、『ひょっとすると、かわいそうだと思う人もいるかもしれない』とは考えました。ただ、今と違うのは、当時は一部のマスコミも『クマを殺す必要はなかったのではないか』という記事を載せていたことです。それは当事者の一人として納得できなかったですね」(鹿又さん)

正しい知識の重要性

 羅臼町の住民は、この地で生きていかなければならない。自分たちの身は自分で守ろうと、クマの生態について勉強を重ねることを決めた。

「クマを人里に呼んでしまわないよう、生ゴミの出し方からみんなで勉強しました。ある時、遠くにいる子グマを見たこともあります。犬ぐらいの大きさだと本当に可愛いんです。でも、クマに関する正しい知識を勉強してきましたから、小さなクマでも長いキバとツメを持っていることを知っています。今年は北海道の役所などにも抗議電話が殺到しているようですが、電話をする人が少しでもクマに関して勉強してくれれば、常識外れの抗議はできなくなるのではないでしょうか」(鹿又さん)

 マスコミの報道も変わってきた。北海道新聞は1996年9月、「熊の入った家」の現状をレポートする記事を掲載した(註)。

 鹿又さんの家にヒグマが入ったことを、当時の専門家は「異常な行動」と分析した。ところが、96年の5月と8月、知床岬の近くにある無人の建物にクマが入り、中を荒らしていたことが分かった。記事では住民が10年前とはクマの生態が変わっていると指摘している。

 同じ北海道新聞が秋田県の現状を伝えた記事を掲載したことを冒頭で触れたが、この中でクマの専門家である大学教授が取材に応じ、《人里周辺では銃で積極的に駆除し、クマを山に押し返さないと被害は減らない》と警鐘を鳴らしている。

羅臼町の異常事態

 北海道や東北地方を中心に“クマ禍”の被害が多発しているが、今年は羅臼町でもクマの目撃情報が相次ぐ“異常事態”が起きているという。

「羅臼町も警戒レベルを上げて、町民に注意を呼びかけています。私たちはキャンプ場も経営しているのですが、今はお客さまをお断りしています。被害を報じるニュースに見入ることも多く、とにかくこの異常事態が一日も早く終息することを祈っています」(鹿又さん)

註:<月曜ルポ>「クマ騒動」逆手に宿と食堂オープン*浦臼町の鹿又さん漁具の倉庫を改造*素朴さ受け旅人に好評*自衛策考える場にも(北海道新聞:1996年9月9日朝刊)

デイリー新潮編集部

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