漁師一家の自宅にヒグマが侵入、冷蔵庫を荒らして…北海道・羅臼町“クマ騒動”その後 被害女性が語る「恐怖の瞬間」「昔と今の違い」
襲われたハンター
その後にハンターが到着し、周囲をパトロールするほか自宅前で監視を行った。家族が台所を見てみると、ヒグマは冷蔵庫の扉を開けていた。
中に入っていたメロンや刺身、鶏の唐揚げなどを平らげ、半分ほど残っていた一升瓶の日本酒も飲み干していた。冷蔵庫のドアにはツメの跡がくっきりと残り、勝手口の周囲ではクマの毛が発見された。この続きはFOCUSの記事から引用しよう。
《冷蔵庫荒らしを発端とする熊騒動は、20日夜ピークを迎えた。地元の羅臼はもちろん標津などからもハンターが集結》
《すぐ近くの家の勝手口が壊されたり、ガラス窓が割られたりの被害続出で、この日、本来は禁止されているハコワナが仕掛けられた》
深夜3時ごろ、体長が約1・4メートル、体重が約250キロにもなる大型のクマがワナにかかった。翌朝になってハンターが射殺したが、FOCUSの記事によるとクマの遺骸を見た近隣住民は「こんなヤツに家へ入ってこられたらたまらんなァ」と言っていたという。
21日の夜には子グマがワナにかかり、近くにいた母グマがハンターに襲いかかってきた。実は前年の85年春、羅臼町でハンターがクマに殺されるという事件が発生していた。ハンターは散弾銃で母グマに反撃したが、致命傷を負わせることはできず、姿をくらませていた。
民宿「熊の入った家」
羅臼町には緊張が走ったが、22日朝に母グマが別の子グマと一緒にいるところを発見。ハンターが2頭を仕留めた。手の大きさなどから、この母グマが冷蔵庫を荒らした可能性もあるという分析もあった。だが、当時はDNA鑑定が一般的ではなく、決定的な証拠は得られなかったという。
興味深いことに、処分されたクマの胃の中は大半が泥で、山にほとんど食べるものがなかったことが分かった。クマ騒動としては一件落着となったわけだが、話はここで終わらない。
自宅の冷蔵庫を荒らされた一家は、スケソウ漁を3代に渡って続けてきた。ところが、90年代に入るとスケソウの漁獲量が激減。地元漁協は漁船50隻の減船を決定し、廃業希望者を募集した。
夫婦は悩み抜いた末、地元で生活を続けるために廃業を決断。96年9月、漁具の倉庫などを改装して民宿「熊の入った家」をオープンした。
ヒグマが荒らした冷蔵庫を陳列すると人気を呼び、宿泊客も増えた。現在も民宿の経営を続ける女将の鹿又知子さん(68)に話を聞いた。
「羅臼は昔からクマが多く、クマを目撃するだけなら珍しいことではないんです。かつては釣ったイカをスルメにして出荷していたので、大量に干していました。それでもクマに食べられたなんてことはありませんでした。クマが住む場所と人間が住む場所は、はっきりと分かれていたんです。なので、わが家にクマが来た時は本当に驚きました」
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