「次の子が産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」の秘密 「散歩で摘んだ野草を給食に」「着替えは毎日3着分」
「できそうな範囲のことをやるのは、家にいるのと同じ」
このように、園で行われるたくさんの行事では、子供と職員と保護者が一体になって、子供たちの願望をどんどん高いレベルに引き上げて実現させる。その積み重ねの中で、子供たちの真の成長を促すのである。
近年の保育業界では、子供同士を競わせない保育が主流である。職員が「ゆったり、じっくり、無理をさせない」と、大半のことを子供の気の向くままに任せているのだ。むろん、親が園での活動に積極的にかかわることもない。
その点、やまなみこども園の取り組みは真逆だ。これについてどう思うのか。
道枝は語る。
「子供の意思を尊重するといっても、4歳、5歳の子に空間だけ与えて自由にしていいよと言ったところで、自分の知っていて、できそうな範囲のことしかやらないでしょう。そんなのは家にいるのと同じです。家庭でできることは家庭でやっていただき、園は園でしかできないことをする方がいい。園の行事などによって職員や保護者が子供たちと向き合って、一段も二段もレベルの高いことを考えさせ、汗水流して実現させる場を作る。そういう経験のくり返しの中で、子供は大人の想像以上の成長を遂げていくのです」
園は、保護者が多忙や自己実現を理由に子育てを代わりにやってもらうための場であってはならない。むしろ、保護者が園の活動に参加し、家庭でできないことをやることによって、子供たちを空高く羽ばたかせるための場であるべきだ。
ともすれば時流と逆行していると受け取られかねないが、園がその哲学を貫けるのは、それだけ保護者の厚い信頼と高い評価があるからなのだ。
2分の1成人式
当然ながら、ここで数年を過ごした子供にとって、やまなみこども園は大きな存在になっている。
一般的には、卒園後に、かつて通っていた保育園や幼稚園を訪れる機会はほとんどないと思う。しかし、ここの卒園生は違う。卒園した後も、彼らは現園長が主宰する児童劇団に入って活動したり、イベントの手伝いに来たりする。園がやっている学童に通う子もいる。保護者がずっと携わっていたいと思って第3子、第4子を作るのと同じように、子供たちも何かしらの形でつながりたいと思うのだ。
道枝は言う。
「子供たちは10歳になった時に“2分の1成人式”ということで園に戻って来ます。それ以外にも中学、高校、大学に入る時など節目節目でやって来る。その度に、園では『お帰り、卒園生』という歓迎会を開きます。園の職員の中には私以外にも30年以上働いている人がいるので、いつ帰って来ても誰か知っている人が迎えてくれる。ここはそんな場所なのです」
卒園生の中には、園で働くようになった人もいれば、結婚して生まれた子供を預けに来る人もいる。そしてその人たちがまた新しく入ってくる子供たちを迎え入れ、力を合わせて子育てをする。
[5/6ページ]