「次の子が産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」の秘密 「散歩で摘んだ野草を給食に」「着替えは毎日3着分」
着替えは毎日3着分
道に生えた花、標識、空き缶の中にまで目を凝らし、面白いものがないかと探す。草むらに小さなカエルがいれば、「見つけた!」と飛び付いて捕まえて子供たちに見せ、木の根にキノコが生えていれば、四つん這いになって形状や匂いを調べる。小川を通りかかった時は、先生が率先してジャージのズボンの裾をたくし上げて水に入っていき、びしょ濡れになって両手でザリガニ捕りをはじめた。
こんな先生を前に、子供たちも負けまいとやる気を漲らせる。公園の湧き水が噴き出る場所に到着すると、「わー」と歓声を上げて服を着たまま水の中に頭から飛び込んでいく。もちろん、先生も一緒だ。
あっという間に子供と先生が入り乱れて相撲をしたり、泥水を口に含んでトンボに向かって吹きつけたり、水草をかき集めて「基地」作りをはじめたりする。着替えは毎日3着分用意させているので、汚れることなどお構いなしだ。
基本的自尊感情を育てる
道枝は言う。
「大人と子供が一緒になって主体的に全力で何かをした時、子供たちの中に『人生は素晴らしい。生きるに値する世界だ』という気持ちが生まれます。実はこれがとても重要なのです。幼い頃に当たり前のこととしてそうした気持ちを抱くと、いろんなことを前向きに捉えられるようになるのです」
これを聞いて思い出したのが「基本的自尊感情」という言葉だ。健康教育学を専門とする近藤卓(日本ウェルネススポーツ大学教授)は、自尊感情には「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」があるとしている。
基本的自尊感情は、他者との共有体験を積み上げることによって「自分は生きていていい」「ここが自分の居場所なのだ」と己の存在を肯定的に考えられる感情であり、社会的自尊感情は、スポーツや勉強などでの社会的価値に基く成功体験を通して得られる感情だ。前者が堅固な基盤となり、後者がそこに上乗せされていく。
今の社会ではともすれば後者ばかりが注目されがちだが、この園では基本的自尊感情を育てることに力を入れているのだ。
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