放送40周年「ふぞろいの林檎たち」 実は2時間スペシャルの続編「パートV」が計画されていた

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パートIV(97年4~7月放送)全13話

 前シリーズから再び6年が過ぎて、良雄をはじめとする「林檎」たちは30代半ばとなった。

 良雄の兄・耕一は病死しており、愛子と幸子と耕一夫妻の娘・紀子で酒店を営んでいる。ラーメン屋を継いだ実と綾子には子供が2人。本田夫婦にも子供ができた。

 離婚して独身の健一は、ライバル会社の相崎江里(洞口依子)から言い寄られている。陽子は余命の長くない患者と恋愛中。晴江は独身のままアメリカに滞在している。

 このパートIVでは、山形から東京に出てきた青年、桐生克彦(長瀬智也)を軸とした事件が起き、それに巻き込まれた良雄が行方不明になったりする。

 やがて良雄は相崎江里と婚約。良雄の母・愛子は不治の病となり、陽子が働く病院にホスピスの患者として入る。帰国した晴江は、日本で看護師の仕事に就く。

幻の続編「パートV」

 パートVがこれまでと違うのは、全10話といった連続ドラマではなく、前篇と後篇になっていることだ。2時間スペシャルが2本だと思えばいい。

 シナリオには細かな設定は書かれてはいないが、パートIVから7年後と思われ、「林檎」たちは40代を迎えている。

 物語は良雄が参加した「婚活パーティー」で陽子と再会するところから始まる。良雄は独身で、運送会社勤務も以前と同じだ。2人は晴江が仲居の仕事をしている日本料理店に行く。

 離婚後、独身のままの健一は、アジアモーターズの営業部に勤務。中古コイルをめぐる会社の「不正問題」に悩んでいる。

 実と綾子のラーメン屋は自営からフランチャイズ所属へと変わった。だが、最近の実は「時々会って話すだけ」の広川由紀という女性に夢中だ。

 健一の行方がわからなくなる。心配して連絡を取り合う良雄たち。当の健一が現れたのは、晴江のところだった。「私に、なに言ってもらいたい? どういうこと求めてる?」と晴江。それは健一にもはっきりしなかった……。

 パートVで際立っているのは、40代の彼らが抱える強い焦燥感だ。

 シナリオには良雄が自分の気持ちを独白する言葉が並んでいる。

「毎日あれこれあるが、心をゆさぶられるようなことは少ない」
「このあたりで何かしないと、人生ここ止まりじゃないのか。このままでいいのか」
「もう少し別の人生を求めなくてもいいのか。別の人生、別の幸福」

 実もまた、

「それぞれ毎日、することはしなきゃならない、金の心配もしなきゃならない、子供もほっとくわけにいかない」
「体もねえ、そろそろ気をつけなきゃならない、ほんとに、これが生きてるってことか、これで、あとは齢をとる一方か」

 それでも健一は、修一に向かってこんなことを言う。

「俺はね、さからいますよ。しゃかりきに働いて来て、このままですますもんか、と思ってますよ」

 やがて良雄は、ずっと胸の奥に抑え込んできた義姉・幸子への思いを現実のものにしようと動き出す。抱える事情はそれぞれだが、一人一人が自問自答しながら明日を探しているのだ。

 この未発表シナリオが書かれてから約20年が経過している。「林檎」たちは60代に差しかかっているはずだ。

 彼らは今という時代を、どんなふうに生きているのだろう。20代、30代、さらに40代の自分と60代の自分には、どんな違いがあるのか。そして、「ふぞろい」であることは彼らの人生にとって何だったのか。

 制作されなかったパートVを飛び越しても構わない。令和篇のパートVIを見てみたくなった。

碓井広義(うすい・ひろよし)
メディア文化評論家。1955年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大学文学部新聞学科教授などを経て現職。新聞等でドラマ批評を連載中。著書に倉本聰との共著『脚本力』(幻冬舎新書)、編著『少しぐらいの嘘は大目に――向田邦子の言葉』(新潮文庫)など。

デイリー新潮編集部

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