「指定暴力団トップ」VS「おばあちゃん5人」のガチンコ裁判 “虎の子”老後資金を奪った巧妙詐欺事件で「使用者責任」は問えるか

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提訴に踏み切った理由

 いまなお特殊詐欺の被害に遭う高齢者は後を絶たないが、勇気を振り絞って背後に控える暴力団トップの責任まで問うケースは異例だ。提訴に踏み切った経緯について、原告側の代理人弁護士の一人がこう話す。

「老後の生活のためにと蓄えていた大切なお金を理不尽な形で騙し取られたことへの悔しさに加え、“これ以上、同じような被害者を出してほしくない”との思いを皆が強く持っていました。また警察による(訴訟当事者への)保護対策の整備が進んでいた状況なども背中を後押しした」

 また提訴の直前に当たる21年3月、最高裁が住吉会系組員による特殊詐欺事件をめぐり、被害女性が訴えたトップの「使用者責任」を認める1、2審判決を支持(上告棄却)したことも影響したという。特殊詐欺事件において組トップの使用者責任が最高裁で確定したのは、このケースが初めてだった。

 今回の裁判でも、Aが関与した特殊詐欺が「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」に当たり、暴対法31条の2に基づく「代表者への使用者責任」が問われたが、一審判決では前述のとおり、福田元会長らに賠償責任があると認めた。

住吉会側の弁護士は…

 住吉会側が「判決は不服」として控訴したのは今年5月。控訴理由書のなかで、一審判決で「Aが住吉会の構成員」であると認定した点につき、その根拠が「(一緒に逮捕された)共犯者の供述」などしか示されておらず、Aを暴力団員と認定したこと自体に誤りがあると主張。Aが構成員でなければ当然、「使用者責任」も及ばなくなる。

 見解を聞くため、福田元会長らの代理人弁護士に取材を申し込んだが、

「(取材や質問に対する)お答えは難しい」

 と事務所を通じて回答。

 原告側の代理人弁護士は今回の訴訟の意義をこう話す。

「原告5人のうち4人の詐欺事件では“受け子”の起訴のみにとどまり、刑事での責任追及が貫徹したとは言い難かった。それでも民事では使用者責任を認め、原告全員を“救済”する一審判決となった点は画期的です。特殊詐欺の被害に遭われた方々が今後、民事で暴力団トップなどの責任を問う上で、今回の裁判が新たな道筋を付けるものになることを願っています」

 控訴審の判決を待たずとも、おばあさんたちの“勇気”には脱帽するしかない。

デイリー新潮編集部

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