ベンチャーを大企業に育て上げるには何が必要か――千本倖生(京都大学特命教授)【佐藤優の頂上対決】
再エネ事業
佐藤 そしてもう一つ、千本さんが取り組まれた事業に、再生可能エネルギーがあります。
千本 私はずっと情報通信をやってきましたが、これから日本で最もクリティカル(深刻)な問題はエネルギーだと思っています。それで、かつての教え子から再生可能エネルギー専業で唯一の独立ベンチャー「レノバ」の木南陽介社長を紹介されたので、そのお手伝いをすることにした。レノバは、太陽光発電を中心に風力発電、地熱発電、バイオマスとマルチに展開している企業です。
佐藤 情報通信と分野は違いますが、エネルギーも枢要な社会インフラです。
千本 私は社会が成り立っている基盤の一番大事なところに変革をもたらしたいという気持ちが強いんですよ。
佐藤 先般、洋上風力発電では、秋本真利議員が受託収賄容疑で逮捕されました。何か影響は出ていますか。
千本 出ていますね。グレーなイメージがついてしまった。そもそもの発端は、秋田県沖など三つの洋上風力発電の入札で、極めて低層な価格を提示した、商社を中心としたコンソーシアムがすべて落札してしまったことです。
佐藤 それで秋本議員が日本風力開発の意向を受けて、入札評価基準を見直すよう国会で質問した。
千本 ええ。あの入札で欧州の洋上風力発電会社は、日本に造ろうとしていた工場をアジア諸国に持って行ってしまったんですよ。だから日本にできるはずだった洋上風力産業が消えてしまった。これは大きな損失です。
佐藤 日本においてはエネルギーミックスが一番現実的でしょうから、どの分野が抜けても安定を欠く。
千本 そうですね。今回のウクライナ侵攻でよくわかったのは、世界のサプライチェーンから独立したエネルギー供給源が必要だということです。特に資源小国である日本はそこを考えないといけない。再生可能エネルギーは、太陽も風もサプライチェーンを必要としませんし、CO2を出さず環境にいいわけですから、これをメインにしないと10年後のエネルギー政策はないと思います。
佐藤 ただ、千本さんは原発の必要性も認めていらっしゃいます。
千本 実は大学では原子炉制御をやっていたんですよ。でも福島の事故で見方が変わりましたね。後処理工程をきちんとやらないと、社会的に存続できない。まあ、現実的には再生可能エネルギーで6~7割、LNG火力が2割、原発1割くらいの電力構成がベストだと思っています。
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