出会いは定食屋、惚れた相手は“スナック勤めのシングルマザー” アラフォー男性に結婚を決断させた29歳の時の“あやまち”
かつて婚約者を失っていた輝司さん
輝司さんは29歳のとき婚約者を失って以来、一生、結婚はしないと決めていた。
「僕が婚約者を自殺に追い込んだんだ。ずっとそう思っていました。僕は長男だったから親のめんどうをみなければいけない。婚約者にも結婚後は同居してほしかった。でも彼女は『いずれというならわかるけど、両親と弟妹のいる家に私だけいきなり入り込むのはむずかしい』と。そもそも婚約したとき、どうしてそのことを言わなかったのかとも責められました。結局、僕が『きみがそんな冷たい女だと思わなかった』と捨て台詞を残して別れたんです。でもその後、うちの親は同居なんて望んでなかったし、嫁を娶ろうなんていうのは僕だけの古い考え方だとわかった。自分だけが空回りしていた、申し訳ない、戻ってきてほしいと言ったのに彼女は戻ってくれなかった。あげく真冬に行方不明になり、春先になってようやく、とある山の中で見つかりました」
彼女は大学でもワンダーフォーゲル同好会にいたほどの山好き。つきあっているときもときどき仲間と山歩きをしていた。危険だと言う彼に「山登りをするわけじゃないから」と言っていた彼女なのに、見つかったのはかなり高い山だった。ひとりで入って滑落したと見られていたが、輝司さんは彼女は身を投げたに違いないと思い自分を責めた。
「彼女のご両親からも、『あなたのこととは関係ないと思うから自分を責めないで』と言われたんです。彼女は両親に、僕との婚約を解消したのは自分の意志だと言っていたそう。僕を悪く言ったことはなかったと聞いて、よけいつらくなりました」
今となっては彼女の本意はわからない。だからこそ彼は苦しんだ。その後は恋愛には見向きもせず、仕事だけに集中した。おかげで同期の筆頭として出世したが、それでも気持ちが晴れることはなかった。仕事は彼の現実逃避だったからだ。
「パパになってもいいかな」
そんな彼が10年ぶりに恋をした。その相手がバツイチで子どももいる英美里さんだった。
「もう固定概念にとらわれたくない、自分の本当の気持ちに正直に生きていきたい。そう思っていたからなのか、僕は英美里にのめり込みました。出会った日から1ヶ月もたたないうちに結婚しようと告げたんです。 彼女は『栞のこともあるし、そんなに急かされても困る』と言っていたんですが、その直後に倒れてしまった。過労でした。昼も夜も働きづめだからだよ、もう働かなくていいからと僕は彼女の弱みにつけこんで結婚の了解をとりつけました」
娘の栞さんに「僕がパパになってもいいかな」と聞くと、彼女はニコッと笑って「うん」と言った。輝司さんはそれを聞いて涙がこぼれ、自分でも驚いたという。
「婚約者の件以後、人間らしい感情を失っていたのかもしれません。娘を抱きしめ、その温かさにまた泣きました。自分が生きる道はここだと思いましたね」
苦労を重ねているシングルマザーを助けている自分に酔っていた側面もありそうだ。だが、それが彼の本望なら、その後の生活は満たされていたはず。ところが人生、なかなかそううまくはいかない。
後編【妻と前夫は今も親密だったことを知りショックを受けた42歳夫 さらに腹が立った彼女の釈明、でも自分でも大馬鹿だと思う出来事が】へつづく
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