「もう一人産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」は何がスゴい?

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園の中にいると障害が目立たない

 今、小澄が見ている子供たちの保護者もまた、自分と同じく園とのかかわりを心から楽しんでいるように感じるという。行事などで接する度に、昔の自分を見ているみたいな気持ちになるそうだ。

 園で働いてみて印象的だったのが、子供たちの発達障害児への接し方だ。やまなみこども園は系列の園と合わせて250人近い子供を受け入れており、中には発達障害と診断された子供もいる。しかし、園の中にいると障害が目立たないという。

 小澄は話す。

「うちの園にも発達障害のあるお子さんはいるのですが、その特性がほとんど障害にならないのです。保護者の方々がよその子にも温かく接してくれる上に、子供たちも細かなルールに縛られずに仲良く伸び伸びと過ごしています。その中で自然と力を合わせたり、相手のことを深く知ったりする。だから、何かの特性があったとしても、それが人間関係や何かをすることの邪魔になるということがほとんどないのです」

 園や大人が子供たちを一律に管理し、そこから外れた行動を“欠点”と見なせば、それは障害として目に映る。だが、ここでは子供たちが自由闊達に過ごしている上に、きょうだいのようにお互いが足りないものを補い合って生活している。それゆえ、発達障害があっても悪い形で目立つことがまれなのだ。

「園を中心とした大きな家族」

 筆者が初めて訪れた日は、子供たちが帰宅した午後7時から園で焼き肉パーティーが開かれた。学校帰りの小澄の子供たちも当たり前のようにやってきて、職員や関係者の輪の中に入り、次から次に焼かれる肉や野菜をつついた。

 この時、子供たちがあたかも親戚に話すように部活や進路の話をする姿に「園を中心とした大きな家族」の光景を見た気がした。

 では、ここで過ごす子供たちは園から何を得ているのか。次回は、園の活動と子供たちの姿を追ってみたい。

(敬称略)

石井光太(いしいこうた)
作家。1977年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。2005年『物乞う仏陀』でデビュー。『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』など著書多数。21年に『こどもホスピスの奇跡』で第20回新潮ドキュメント賞を受賞した。

週刊新潮 2023年11月23日号掲載

特別読物「『もう一人産みたくなる』奇跡の保育園『やまなみこども園』探訪記」より

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