「もう一人産みたくなる」 奇跡の保育園「やまなみこども園」は何がスゴい?
「園のお友達」というより「きょうだい」
もちろん、子供たち同士の距離も非常に近い。午後4時~6時は子供たちが親の迎えを待ちながら自由に過ごす時間だ。この時、筆者が子供たちと遊んでいると、「今度××君と旅行へ行くんだ」とか、「〇〇ちゃんのお兄ちゃんにカードゲームを教えてもらってるの」という話が次々と出てくる。子供同士は「園のお友達」というより「きょうだい」のような関係になっているのだろう。
子供を通わせるため、園の近くに多くの保護者が引っ越してくるので、多様なつながりができ、「やまなみ経済圏」と呼ばれるコミュニティーが生まれつつあるほどだ。
保護者が多産になるのは、そうしたことが影響している、と道枝は語る。
「うちの園にいれば、保護者の方々は第二の青春を謳歌しながら、他の家族と助け合って子育てができます。それがすごく楽しくて安心だから、なかなか離れたくなくなるし、もっと子供を産んでもいいかなって気持ちになる。それで第3子、第4子とたくさん子供を作って、中には10年以上も園の保護者としてかかわる人もいます」
子供の卒園後に、職員として残る保護者も少なくない。園の方から、スタッフとして働かないかと打診されるのだ。
「みんなで育てるのって、こんなに楽しいんだ」
その一人が職員の小澄美幸(45)だ。小澄は体育教員などいくつかの仕事をしながら、2人の子供を園に通わせていた。もとは別の園だったが、やまなみこども園の保育の理念に共感して転園させたところ、子供は初日から感動し、「楽しい!」と心を躍らせたそうだ。
そんな小澄が園の職員になったのは5年ほど前のことだ。園が、運動神経に秀でて、子供好きな彼女に声をかけ、「うちで働かないか」と誘ったのだ。小澄はその時の心境を次のように語る。
「ここには保護者から職員になった先生方もたくさんいますし、何より園での楽しい思い出があったので、もう一度こことかかわりたいという気持ちで働かせてもらうことにしました。今はここが居場所という気持ちです。うちの子たちも私が働き出したことでまた来られるようになって喜んでいます」
小澄が語る「園での楽しい思い出」の一つは、行事への参加体験だ。子供を入園させた当初は、行事の多さや他の保護者との距離の近さに驚いたが、すぐにそれは安心へと変わった。先生、保護者、子供などみんなが親身になって付き合い、時には温かく本音で叱ってくれることもある。だから、強制されているわけではないのに、自分の方から園との付き合いを深めていくようになる。
小澄は言う。
「みんなで見て、みんなで育てるのって、こんなに楽しいんだって思いました。それは他の親御さんも同じで、たくさん子供を作るだけでなく、園の近くに引っ越してきたり、子供たちを大勢乗せて出かけられるワゴン車を購入したりする人もいるんです」
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