【ブギウギ】東京編に移って視聴率も上昇気流に…鮮明になりつつある作品のメッセージとは
悲しみを乗り越えるには歌うしかない
それは服部さんがつくり、笠置さんが歌った楽曲の扱い方でも分かる。「ラッパと娘」(1939年)は第30回、「センチメンタル・ダイナ」は第35回で、それぞれスズ子がフルコーラスで熱唱した。フルコーラスはドラマでは珍しい。制作陣が歌の力を表そうとしている意気込みが反映されていた。
物語上の現在は1939年。大戦が始まった年だ。36回、日宝に移った松永の後任の演出家・竹田(野田晋市・55)が、スズ子たちに向かって「今後はより時局に合わせた舞台にしていくことによって、梅丸楽劇団もお国のため、庶民のための劇団になれると私は思うんですね」と言明した。
竹田が時局に合わせようとしているのは演出面だけではなかった。スズ子の化粧などにまで「もう少し地味に」と苦言を呈した。スズ子は反論したいように見えたが、結局は何も言えなかった。あの時代は「お国のために」を前提にされると、口を閉ざすしかなかったのだろう。
昔も今も「国のために歌おう」と考えるアーティストは圧倒的に少数派に違いないから、スズ子にとっては辛い時代に突入した。そのうえ、母・花田ツヤ(水川あさみ・40)は危篤で、六郎(黒崎煌代・21)は出征する。スズ子と2人は血縁がないから、余計に心痛いはずだ。
ツヤは無限とも思えるほどの愛情を注いでくれた。24回、上京を願い出たスズ子に対し、「行かんでええんちゃう」と厳しい口調で反対したのは離したくなかったからだ。六郎も「ねえやん、ねえやん」と無邪気に言い、慕ってくれた。
どちらも無償の愛だから、スズ子は悲しみを募らせるはず。それを乗り越える術は歌うことしかない。
六郎の亀は家族の絆の証に
六郎が不幸にも戦死した場合、亀は誰が育てるのだろう? 物語のポイントの1つになるに違いない。亀の寿命は長い。万年はさすがに迷信だが、約10年から約60年生きる。六郎の亀は家族の誰かによって育てられ続け、花田家の絆の証になるはずだ。脚本家も演出家も無意味なものは登場させない。
脚本家や演出陣の個性や趣味は物語の本筋から外れたところに表れやすい。本筋で個性を前面に出したら、物語を壊してしまいかねないからだ。演出家が助演には好みの俳優を起用することが多いのと同じ理屈である。
このドラマで脚本家、演出陣の個性を強く感じさせるのは、スズ子と淡谷のり子さんをモデルにした茨田りつ子(菊地凛子・42)が所属するレコード会社の名前。笠置さんと淡路さんが所属していたのは創業113年の名門・日本コロムビアだが、スズ子と茨田の場合はコロンコロン。単純だが、それだけにおかしく、吹いた。
コロンコロン社のロゴマークにカエルとオタマジャクシが描かれていることはご存じだろうか。これにも笑わせられた。日本コロムビアのロゴには音符が描かれているからだ。音符の別名はオタマジャクシである。
メイン脚本家の足立紳氏は、脚本家兼監督として映画「14の夜」(2016年)などユーモラスな作品をつくってきた。コメディのセンスに満ちた人なのだろう。スズ子が松永からの移籍話をプロポーズと勘違いするなど、既にコミカルなシーンをいくつも用意してくれているが、今後も歌以外にもコメディの部分に注目である。
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