マキロイがPGAツアー選手会理事を退任 「やるべきことが多すぎる」の裏にある深い理由

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TGLでトラブル

 しかし、依然として気になることもある。来年4月のマスターズ、そして、他のビッグ大会の制覇に向けて「時間とエネルギーを注ぎたい」と言ったマキロイだが、PGAツアーの選手会理事を辞任したところで、彼にはそれ以外にも時間とエネルギーを取られることがあるのではないか。

 その一つ、ウッズとともに考案し立ち上げようとしているTGL(Tech-Rich Golf League:テクノロジーを駆使した未来のゴルフリーグ)は、来年1月9日からのキックオフが予定されている。折しもマキロイが理事を辞任する意向を発表した翌日、TGLのホームとなるべくフロリダ州パームビーチガーデンに建設中の「SoFiセンター」なる25万スクエアフィート(2万3225平方メートル)の巨大なドームが、電気系統の不具合によるエアシステムの障害が原因で、一夜にして無残に崩壊するというビッグ・アクシデントに見舞われた。

 幸い負傷者はなく、すでにドーム内に配備されていた一部のハイテク機器などにもダメージはなかったそうだが、予定通り1月9日から開幕できるかどうかは未定で、マキロイの頭痛の種は思わぬところで増えつつある。

ゴルフに集中できない環境を危惧

 そしてマキロイは、理事職を辞した後も、PGAツアーとPIFの統合合意が今年の年末までに本当に成立するのかどうかが気になるはずである。

 現状では、PGAツアーは従来通り独立したツアー運営組織として非営利法人の形態を継続するが、それとは別にPGAツアーとPIFは共同で営利法人の新会社「PGAツアー・エンタープライズ(仮称)」を創設し、PGAツアー選手も株主になると見られている。

 選手たちがプレーヤー目線で新会社の経営に参画することは、生の声が反映されるという意味では悪くない。だが、そうなるとますます、選手が自身のゴルフそのものに集中しづらい環境になる。

 その挙句、マキロイがそうであるように、課題山積の飽和状態にアップアップしてしまうようでは、選手としては本末転倒と言わざるを得ない。そもそも選手は、良きプレーを披露するのが仕事であり、選手がその仕事に集中できるよう環境を整え、サポートするためにツアーという組織があるのではないだろうか。

 もちろん、選手とツアーが助け合ったり、意見を出し合ったりすることは、お互いの前進になる。だが、選手とツアーの線引きが曖昧になりすぎてしまったら、それぞれの仕事を全うすることが難しくなるのではないだろうか。

 マキロイはそのことを危惧し、そうなる前に自ら「選手は選手、ツアーはツアー」という線を引き直そうとしたように思えてならない。だからこそ彼は、理事から辞任することを決意した。

 そして彼は、自身が発案・創設しようとしているTGLとも、やがて一定の距離を置くようになるはずだと私は思っている。なぜなら、マキロイは生粋のアスリートであり、勝利を追求している限りは、ビジネスより何より「勝つことが大事」と考える。

 マキロイが「そういうマキロイ」であることがわかって、私はホッと胸を撫で下ろした。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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