「不倫・略奪・禁断」がテーマかと思いきや、湿度の低い愛憎劇の「けむたい姉とずるい妹」 丁寧な心情描写にうなる
腹立たしいきょうだいの存在に日々心の中で唾を吐いている人は、意外と多い。親の差別やひいき、介護や遺産相続の問題、そもそも性格が正反対。そりゃ地獄さ。
姉妹で仲が悪い作品といえば、トニ・コレット&キャメロン・ディアスの映画「イン・ハー・シューズ」、ニッチェの江上敬子&筧美和子の映画「犬猿」、松下奈緒&石原さとみのドラマ「ディア・シスター」を思い出すが、すべては姉妹が絆を深める結末で、やや疑念が残る。逆に、拒絶と絶縁しか匂わないのが「けむたい姉とずるい妹」である。
【写真】完璧美人な姉「栗山千明」と愛らしいタヌキ顔の妹「馬場ふみか」
姉のじゅん(栗山千明)は心療内科医。高校生のとき、恋人の律(柳俊太郎)を異父妹のらん(馬場ふみか)に奪われている。しかも、その後二人は結婚して夫婦に。
昔からおもちゃも洋服もアクセサリーも、大切なものをすべて妹に奪われてきたじゅんは、妹を心底嫌っていた。物語は、母(雛形あきこ)が亡くなったところから始まる。母の見舞いに来なかったくせに葬式では大げさに泣きじゃくる妹を見て「今日で姉妹は終わりにしよう」と決意を固める。
母亡き後の実家で暮らし始めたじゅん。ところが、妹夫婦が勝手にどやどやと引っ越ししてくる。うそつきな妹と裏切った元彼と、ひとつ屋根の下、意地を張り合う地獄の同居生活に突入。
姉は才色兼備の優等生で、実は母が一番愛した男との娘。妹からすれば憧憬というより嫉妬と敵意の対象だ。
栗山(寝取られがちな完璧美人)と馬場(メンヘラが匂う愛らしいタヌキ顔)の対照的な雰囲気も妙にしっくりくる。姉妹丼しちゃった優柔不断男の律は超低体温の柳が好演。グズついた律の背景には、やることなすこと禁じて支配してきた毒母(渡辺真起子)がいる。
不倫・略奪・禁断と、文字にすると禍々しい。テレ東の宣伝動画でも、いかにもベタなドロドロ愛憎劇としてあおりまくっている。でも本編を観たら「え? 別のドラマ?!」と思うはず。
なぜなら想定外に耽美な映像だから。例えば、じゅんと律が吸うたばこは共犯関係の象徴であり、けむたい=存在が邪魔、という暗喩もある。たばこの先端を合わせる「たばこキス」は普通のキスより背徳的で官能的だ。昨今、喫煙はまるで犯罪扱いだが、表現としてのたばこの汎用性を改めて痛感。また、ベタにあおるのではなく、淡々と嫉妬の感情を描くため、湿度は低め、そこはかとなく美しい。
スピード&テンポが勝負の風潮にあえて逆らい、まだるっこしい展開だが、心情を丁寧に描くことで姉妹の異様な粘着質も見えてくる。姉妹共に「あたしを見て!」と心で叫ぶあたりはもはやサイコホラーですよ。
この三角関係を良くも悪くも見守る人がいる。じゅんの同僚(大浦千佳)やいとこ(桜田通)は、略奪を実行するじゅんに対して手厳しい。編集者の律が担当する作家(森脇英理子)は「人の恋なんて茶化すためにある」と逆にあおる。やんややんやと周りは正論ぶちかまして説教こくんだけど、姉妹は止まらず、絆が深まる要素はひとつも見当たらず。はたして、どうなることやら。