クマの駆除に「お前も死んでしまえ」と抗議電話する人々の正体…闇バイトに応募する者との共通点も
カスハラの歴史
昔はカスハラなんてなかったのに──と首を傾げる50代以上の人もいるだろう。その疑問は正しい。カスハラは2000年代以降、顕著になってきたことがさまざまな調査で判明しているという。
「2000年代以前の抗議電話は、特定の団体がマスコミをターゲットにするといった、何かしらの明確な目的を持つケースが目立つくらいでした。個人が企業などに悪質なクレーム電話をかけるというケースも存在したとは思いますが、企業内にて処理できるものが多く、社会問題として浮上することはなかったのです。特に80年代後半から90年代初頭、日本はバブル景気に沸きました。右肩上がりの幸福感が、カスハラを生じさせなかった一因になっていたのかもしれません」(同・桐生氏)
90年代初頭にバブル景気が弾けると、日本は「失われた20年」に突入した。そしてカスハラの“誕生”に深く関係しているのが、いわゆる「団塊の世代」だ。
「2000年代から団塊の世代が出向を命じられたり、定年を迎えたりするなど、雇用状況に変化が生じました。収入や社会的地位は下がり、不景気が追い打ちをかけ、ストレスを抱える人も少なくなかったのです。そんな彼らが衣食住や交通といった日常的なサービスを利用すると、自分たちのプライドに見合わない対応を受けたと感じることがあり、その時は電話で企業に過度なクレームを行いました。タイミングの悪いことに、不景気で企業は消費者重視の姿勢に転じていました。彼らのクレーム電話に迎合してしまい、お詫びの品などを贈ったのです。結果、『文句を言った者勝ち』という状況が生まれ、日本社会にカスハラが猛烈な勢いで拡がっていきました」(同・桐生氏)
幼稚化した人々
そして、まさに今、カスハラの件数は頂点に達したと桐生氏は見ている。日常生活でストレスを感じていない人たちであっても、クマの駆除というニュースに反応し、過度なクレーム電話で暴言を吐き散らす──。それくらいカスハラが一般的になったというわけだ。
「コロナ禍の影響も重要です。自粛ムードで他者との関わりあいが減り、いったんはカスハラも沈静化したように思われていました。ポストコロナの到来でリアルな人間関係が復活しましたが、中にはコロナ禍で対人スキルが低くなった人が出てきます。例えば今、闇バイトが横行しています。日中に宝石店を襲えば、逮捕されることは明白です。ところがリアルな対人関係が薄れてしまったことで、行動が短絡的になり、自分が逮捕されるという想像力も低下する“幼稚化”現象が現れています。実は、カスハラを行う人にも同じ特徴が認められるのです」(同・桐生氏)
自分がカスハラに手を染めれば、その電話に応対する職員がどれだけ心に傷を負うか、どれだけ業務が滞るか、全く想像することができない。いや、そもそも自分の行為がカスハラだと認識することができない──。
闇バイトに応募する者も、役所にカスハラ電話をかける者も、共感力や想像力が低下した幼稚な精神状態を持っているということになる。
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