5年生存率が1割以下のすい臓がんの「超早期発見法」をスペシャリストが伝授
「本物の不良」を見つけ出す
では、ステージ0の上皮内がんはどのように見つければよいのか。これまで膵臓がんの早期診断には膵臓の周囲や内部にできる袋状の“できもの”である「膵嚢胞」に着目する方法がよく使われていました。しかし、近年、ここに一石を投じるものとして、膵上皮内腫瘍性病変(PanIN〈パニン〉)の存在が注目されています。PanINとは、いわば膵管上皮細胞のカーペットに生じた微細な毛羽立ちや皺、厚みの変化のことです。
このPanINにも段階があって、ローグレードとハイグレードに分類されます。ローグレードはまだ良性の細胞ですから、イメージは「ちょい悪の不良」で、それが「本物の不良」になったのがハイグレード。この「本物の不良」がステージ0の上皮内がんです。そしてハイグレードの悪性度が増してチンピラになったのがステージ1の膵臓がん。チンピラたちは徒党を組んで教室の窓や壁を破壊し、あっという間に学校の外にあふれ出していきます。彼らがさまざまな街で広域暴力団や国際マフィアになれば遠隔転移です。
人間の「ちょい悪の不良」は成長とともに更生することもありますが、細胞の不良が正常細胞に戻ることはありません。つまり、「ちょい悪」のローグレードも放っておけばいつかは必ずがん化する。ただ、それは1カ月後かもしれませんし、10年後かもしれない。「ちょい悪」がいつ「本物の不良」や「チンピラ」になるかは誰にも分からないのです。
さらに厄介なのは、膵臓にはローグレードのリーゼント頭によく似た「寝癖頭の生徒」が混在していることです。この「寝癖頭」は膵管内の炎症による変化で、いわば夜更かしをして朝寝坊をしただけ。不良でもないのに退学処分になるのではたまりません。
従って、ローグレードのちょい悪の段階でPanINを取ってしまうと、「膵臓がんでもないのに膵臓を切ってしまった」という事態を招きかねず、フライング。本物の不良になった段階を見計らって取り締まる必要があるのです。
高リスクなのはどんな人?
ただし、PanINは微細な変化ですから、顕微鏡でやっと見えるかどうかというレベル。CTやMRIには到底写りませんから、精密検査を重ね、「本物の不良に違いない」という間接証拠を積み重ねるしかないのです。間接証拠となるのは、「嚢胞」や「主膵管の狭窄・拡張」、「膵臓実質の萎縮」など。こうした所見をMRIや超音波内視鏡を用いて見つけ出します。
詳細な検査方法などは『膵臓がんの何が怖いのか』(幻冬舎新書)を読んでいただきたいのですが、大切なのは検査を受けないことには何も始まらないということ。膵臓がんの好発年齢は60代半ばからと高齢ですが、リスクのある人は50代のうちから消化器内科や膵臓がんドックのある病院で検査をすべきでしょう。
例えば「慢性膵炎」に罹っている人や「膵嚢胞」が見つかった人、家族に膵臓の病気がある人、長年にわたり大量のアルコールを摂取してきた人は膵臓がんのリスクが高い。また、糖尿病の人も膵臓がんの発症率が高いですから、是非、検査を受けるべきです。
最後になりましたが、PanINはあくまで「がんの手前」ですから、患者さん自身はいたって健康という人も多い。そのような状況で「膵臓を切る」と言われても簡単には受け入れられないでしょう。
膵臓がんは「切れば治る」というほど単純ではありません。まずは闘い方を正しく理解し、医師とじっくり話し合って治療を行うことが何より重要です。
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