5年生存率が1割以下のすい臓がんの「超早期発見法」をスペシャリストが伝授
膵臓がんのほとんどが浸潤性タイプ
浸潤性タイプはいったん周囲へしみこむと広がっていく速度が非常に速い。さらに周囲に浸潤していったがん細胞は近くを通る血管やリンパ管に入り込んで全身に繰り出していきます。
これは、リーゼントの不良集団が増長してチンピラ(がん)になり、窓や壁を破壊して隣の教室まで侵入(浸潤)して、他校や別の街まで散り散りに脱走(転移)していくイメージです。一方の膨張性タイプは、不良集団が大きくなっても、しばらくは誰一人離れずに仲良くスクラムを組んでいる。これなら手術などできれいに取ってしまえる可能性が高いのですが、浸潤性タイプは見た目では一掃できていても廊下の隅や学校の駐車場、はたまた隣の学校や別の街に潜んでいることが多いのです。
たとえば胃がんの大多数は膨張性タイプですが、浸潤性タイプとして知られているのが「スキルス性胃がん」です。スキルス性胃がんは進行が非常に速く、転移もしやすい。48歳の若さで亡くなった人気アナウンサーの逸見政孝さんが見舞われたのが、このスキルス性胃がんでした。
繰り返しますが、膵臓がんのほとんどが浸潤性タイプ。徒党を組んだチンピラを学校の中で一掃したと思ったら、すでに学校の窓や壁を壊して隣の教室や学校外にあふれ出していた。彼らが逃亡先で再び徒党を組めば画像診断などに写り込みますから「再発」ということになるのですが、厳密に言えば逃げ出したチンピラを見逃していただけです。つまり膵臓がんの再発は、がんが周囲の大きな動脈には浸潤していないステージ1や2だと思っていたのが、実際には3や4だったということ。ステージ1や2で見つかる人が全体の2~3割と言いましたが、実際の割合はさらに少ないのです。
ステージ0は転移しない
〈ステージの低いうちにたたく。そんながん治療の基本が通用しにくい浸潤性タイプの膵臓がん。そこで、「ステージ1でダメならステージ0で」という逆転の発想で考案されたのが「超早期発見法」というわけだ。〉
日本膵臓学会の過去27年間の全国調査データ(2012年集計)では、3万2619人の膵臓がん患者のうち、ステージ0で見つかったのは411人(1.26%)しかいません。しかし、彼らの5年生存率は85.8%とかなり良好です。さらに、この集計では患者が膵臓がん以外の原因で亡くなった場合も区別せずにカウントしているため、死亡原因を膵臓がんに限ればおそらく生存率は90%を超えていると思われます。
ステージ0の治療成績が良いのは、ひとえに「転移しない」ことに尽きる。つまり、リーゼントたちがチンピラになる前、まだ教室内にとどまっているうちに取り去ってしまうのです。
ステージ0の段階の膵臓がんは「上皮内がん」と呼ばれます。先ほども言った通り、スーパー消化液が通る膵管の内側表面には膵管上皮細胞が均一に並んだ薄い膜がカーペットのように内張りされています。「上皮内がん」とは、がん細胞がその膵管上皮内にとどまっている状態のことを指します。
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