5年生存率が1割以下のすい臓がんの「超早期発見法」をスペシャリストが伝授

ドクター新潮 ライフ

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遺伝子のミスコピーで“出来損ない”の細胞が

 ただ、注意すべきは人間の体や臓器も“肉”でできているということ。困ったことに、この膵液が膵管のほころびなどから漏れ出した場合、膵臓自身が食べ物と同じように分解されてしまい、自己消化を起こします。このように、漏れ出した膵液が膵臓の細胞を溶かして炎症を引き起こすのがいわゆる「膵炎」です。さらに、事故などで膵臓が断裂し、膵液が膵臓の外に一気に漏れ出すとどうなるか。膵液によって太い血管が溶かされ穴でも開けば、大出血を引き起こし死に至ることもあります。膵臓の検査や治療では、この膵液漏れを起こさないよう細心の注意を払う必要があるのです。

〈膵臓がんが厄介な理由は検査の難しさだけではない。膵臓がんはたとえステージ1や2で手術ができたとしても、後になって再発するケースが少なくないのだという。〉

 人間の体は同じ遺伝子を持った、形や働きの異なる無数の細胞でできており、これらの細胞は一定の周期で“定年”を迎え、後輩の細胞と入れ替わります。この「新陳代謝」は細胞分裂、つまり同じ細胞の正確なコピーで繰り返されますが、細胞分裂の過程で遺伝子のミスコピーが起こり、出来損ないの細胞が生まれることがあるのです。

“出来損ない”などというと、何かが足りないひ弱な細胞を想像されるかもしれませんが、そうとは限りません。中には正常な細胞より強い生命力を持って勝手な振る舞いをする“悪童タイプ”が存在するのです。この悪童タイプの出来損ないが異常に増殖し、集団を形成したものが腫瘍です。

ちょい悪の不良から本物の不良へ

 腫瘍細胞が生まれる原因である遺伝子のミスコピーは、細胞分裂の頻度が高いほど起こる確率が上がります。人間の体の中で細胞分裂の頻度が高い、すなわち新陳代謝が活発な部位としては、外界と接している皮膚や、外界から入ってくる空気や食べ物とダイレクトに接する胃腸・気管支・肺などの粘膜や上皮が代表的です。また、取り扱い注意の危険物である「膵液」が流れている膵管も非常に激務。従って膵液が流れる水路の壁の内張りを務める「膵管上皮細胞」なども頻回の選手交代が必要になります。この「膵管上皮細胞」は膵臓がんの超早期発見のカギを握る細胞ですから、よく覚えておいてください。

 さて、腫瘍細胞は正常な細胞よりも早いサイクルで細胞分裂を繰り返し、仲間を増やしていきます。少し例えが古いかもしれませんが、3年A組のちょい悪の○○君が、夏休み明けにリーゼントで登校してきたと思ったら、1週間後にはリーゼントの生徒が2人になり、学期末には10人に増えていた、そんな感じです。

 勘違いしやすいのは、必ずしも「腫瘍=がん」とは限らないということ。ちょい悪の不良は、見た目は怖くても意外に先生の言うことを聞いて、朝礼でもきちっと整列していたりする。この程度なら少々定員オーバーでも、もともとの臓器や組織にあまり影響を及ぼしませんから良性の腫瘍細胞ということになります。

 ところが、腫瘍細胞は細胞分裂の頻度が高いため、さらに新たなミスコピーが加わって、ちょい悪の不良から本物の不良、そしてチンピラ、やくざへと成長していきます。そうやって良性だった腫瘍の悪性度が段階的に上がって、やがてはがんに変わっていくのです。

 さらに膵臓がんの場合は多くが「浸潤性タイプ」であることが問題を大きくしています。固形がんは、周囲の組織や臓器を押しのけながら大きくなっていく「膨張性タイプ」と、周囲の組織や臓器にしみこむように入り込み、やがて置き換わるように広がっていく「浸潤性タイプ」に大別できるのですが、膵臓がんはほとんどが後者。

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