日本の農畜水産物は「第二の自動車産業」になる――安田隆夫(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス創業会長兼最高顧問)【佐藤優の頂上対決】

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食材と食文化を輸出する

佐藤 反響はいかがでしたか。

安田 すぐに行列ができましたね。行列のできるコンセプトショップなんて他にないですよ。これはつまり、日本がすごいソフトだということです。その国内の食品や製品だけを集めて店が成立する国は、日本以外に思い浮かびません。メイド・イン・チャイナはないし、メイド・イン・アメリカもない。メイド・イン・フランス、イタリアあたりなら考えられなくもないけど、難しいでしょう。

佐藤 かつて東京には、メイド・イン・ザ・ソビエトユニオンの店がありました。「ベリョースカ(白樺)」と言い、ウオッカやコニャック、キャビアなど、旧ソ連圏のものだけ置いていた。たぶんKGB(国家保安委員会)が協力していたと思います。

安田 つまり国策ショップですね。

佐藤 はい。経済合理性度外視でやっていました。

安田 そうでないとできないでしょう。だから日本の食品だけで店が成り立つのはすごいことですよ。やはり日本の商品はクオリティーが高い。しかもいまは円安で、外国人には物価が非常に安く感じられる。だからインバウンドで来日する観光客は、ドン・キホーテでも山のように買い物をして帰国していきます。ただ食品はさまざまな制限があり、持ち帰れないものが多い。ですからきちんとした形で外国へ輸出すれば、大きな需要があるのは間違いないのです。

佐藤 そもそも、いまや世界中に和食のレストランがあり、そのメニューや味に親しんでいます。

安田 和食レストランは増えましたが、食材はどうかといえば、多少はある、という程度です。それも先に述べたように、極めて値段が高い。そこへはるかに安い価格設定で売り出したので、行列ができた。しかもお客さまは90%以上、シンガポールの人たちです。

佐藤 日本のドン・キホーテでも売られていますが、シンガポールでは焼き芋が大人気だそうですね。私の浦和高校時代の同級生に、農水事務次官を務めた末松広行氏がいます。彼は日本の農畜水産物の輸出拡大に安田さんが大きな役割を果たしていると言っていました。

安田 末松さんには日本産品の輸出活動にご協力いただいており、よく存じ上げています。そうでしたか、いろいろお話しされているのですね。

佐藤 彼は、焼き芋を例に、安田会長は「付加価値の天才」だと言っていました。

安田 それは過分なお言葉ですが、日本の食材を売るといっても簡単ではなく、工夫が必要です。日本の食材の調理方法は、外国人にはわからないものです。だからまず出来上がったものを見せて、食べていただく。シンガポールでは焼き芋ですし、マレーシアでは和牛を串に刺し、その場で食べていただいています。どちらも大人気です。

佐藤 食材とともに食文化を輸出していることになりますね。

安田 その通りです。このDON DON DONKIをインキュベーター(孵化器)として、さらにその派生型ともいえる独自業態も生まれています。例えば、2021年10月に香港で開業した「鮮選寿司」です。ここは名前の通りのすし店ですが、私どもにとっては、すしをパックに入れて惣菜コーナーに置くのも、お皿に盛り付けてお客さまにお出しするのも、ほとんど同じ作業です。最後の工程とオペレーションを少し変えるだけですし店ができる。これは、単なる物販でも飲食でもない「物販飲食」という第三の形態です。

佐藤 言われてみればそうですが、誰もやろうとはしなかったですね。

安田 それから2021年11月にシンガポールで「冨田精米」、2022年6月には香港で「安田精米」という米店を開業しました。ここではおにぎりを売っています。日本の米のおいしさを実感してもらおうとしたら、たちまち人気店となった。もちろん最終的には米を買っていただきたいのですが、それにはまずおにぎりでそのおいしさを知ってもらうのが一番いい。

佐藤 おにぎりという食べ物で、お米の試食をする。

安田 ええ、試食です。それも有料試食です。

佐藤 現在、海外にはどのくらい店舗があるのですか。

安田 小売店はアジアだとシンガポールが15店舗、香港10店舗、タイ6店舗、マレーシアと台湾に3店舗、マカオに1店舗あります。

佐藤 もう一大チェーンですね。

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