日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する「尹錫悦政権」の現在
三木武吉、出でよ
左派系紙、ハンギョレは「保守系メディアの社説やコラムは連日、大統領に『スタイルを変えろ』と述べ、焦燥感を隠さない」と冷笑しました。「大邱・慶尚北道と『70代以上』が守る『落ち着いた』大統領」(10月19日、日本語版)です。
保守メディアには「三木武吉、出でよ」と訴える記事まで登場しました。筆者は1980年代末に東京特派員を務めた朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)顧問。
「[姜天錫コラム]尹大統領の時間」(10月30日、韓国語版)で1950年代半ば、左派全盛の日本で保守合同を成し遂げた三木武吉を紹介したのです。ポイントを訳します。
・保守の執権党たる自由党は過去の怨恨のため引き裂かれていた。この状況下で、大臣を一度もやったことのない三木が保守合同に動いた。まず取り込んだのは自分の夢を壊した政敵だった。手を組む相手は共産党と社会党でない限り、色を問わなかった。
・自分が担いだ総理や党総裁でも、合同の邪魔になれば引きずり降ろそうとした。合同に賭けた当時の三木の姿には鬼気迫るものがあったという。1955年末、保守合同は成り、末期癌だった三木は数カ月後に息を引き取った。
――血を吐くような原稿ですね。
鈴置:左派政権に戻れば、韓国は再び米国離れし安保危機に直面する。というのに、保守は内部抗争に明け暮れ、左派に政権を奪われそうになっている。「今が国運の分かれ道」と、元老記者がまなじりを決した観があります。こうも呼びかけています。
・100人を超える「国民の力」の議員の中で、日本の三木のように合同に狂奔する議員が1人でもいるのか。
これが韓国の現実です。現代の日本にも「三木武吉」がいるとは思えないのですが。
首相になっても食い逃げ
――「岸田政権との約束も反古になる」とのことでしたが。
鈴置:いわゆる徴用工問題で、尹錫悦大統領は日本企業に勝訴した韓国人とその遺族に対し、韓国政府傘下の財団が賠償金相当の金額を支払う、という「肩代わり案」を提示し、岸田首相もこれを呑みました。
一部の原告は「肩代わり案」に反発し受け取らなかったため、政府傘下の財団は裁判所に供託しようとしました。ところが韓国の裁判所は供託手続きを認めず「解決案」は完全に宙に浮きました。
左派の大法院長(最高裁長官)の任期が2023年9月で終るため、尹錫悦政権は「自分たちの息のかかった裁判官を大法院長に指名すれば供託手続きは可能になる」と考えていたと思われます。
しかし、多数党の「共に民主党」は大統領が指名した候補者の就任を拒否。今に至るまで新たな大法院長が就任するメドは立っていません。総選挙で「共に民主党」が力を増して左派の大法院長が誕生すれば「肩代わり案」は司法の場で完全に葬り去られるでしょう。
――振り出しに戻ったのですね。
鈴置:それどころではありません。日本はまたも食い逃げされることになりそうです。安倍晋三、菅義偉の両政権は「1965年の請求権協定で問題は解決済み。韓国の判決は国際法違反である」として違反状態の是正を求めていました。
しかし、岸田政権は「肩代わり案」の見返りに、この要求を降ろしてしまった。韓国に左翼政権が誕生すれば「キシダは判決の正当性を認めたではないか。日本企業に賠償金を払わせろ」と言ってくる可能性が大です。
岸田政権の貢物はそれに留まりません。「ホワイト国」に戻したうえ、通貨スワップの締結も約束してしまった。レーダー照射事件は不問に付した。岸田氏は外相時代に続き、首相になっても韓国に騙され続けているのです。
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