日韓友好で支持率アップ? 岸田首相が気付いていない、空中分解する「尹錫悦政権」の現在

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通貨危機なら弾劾

――総選挙で保守が負けるとどうなるのでしょうか。

鈴置:尹錫悦政権は一気に弱体化します。岸田政権との約束も反古になるでしょう。すでに怪しくなっていますが。韓国は大統領制の国ですが、与党の議席が国会で3分の1を下回ると大統領権限は急速に弱まります。

 野党は憲法を変えられるようになります。大統領の拒否権も事実上、消滅します。何よりも注目すべきは大統領弾劾ができるようになることです。

――弾劾って簡単にできるものですか?

鈴置:朴槿恵(パク・クネ)大統領への弾劾が成功して以降、韓国では異例な政治手法ではなくなった。日本で言えば「内閣不信任案」くらいの軽い感じになりました。現に尹錫悦政権が揺れ始めると、野党や左派系紙は弾劾を言い出しました。

 仮に韓国が通貨危機に陥れば即、弾劾ということになるでしょう。「韓国にまたも通貨危機の足音 『世界が羨む我が国の経済が…』日韓スワップは発動できるのか」で詳しく説明したように、韓国は一歩間違えればドル不足に陥って経済が破綻する瀬戸際にあります。

 現在、与党「国民の力」の議席数は全300議席中、112議席と過半数に達していない。一方、野党第1党の「共に民主党」は168議席ありますから与党側の法案を容易に否決できますし、与党が反対しても自分の提出した法案を通せます。

 ただ、左派系の政党や無所属を合わせても3分の2には及ばないため、憲法改正や大統領の弾劾はできません。大統領に法案への拒否権を発動されても、押し返せません。韓国国会で与野党は微妙なバランスに乗っているのです。

 「国民の力」は李在明拘束をテコに、来年4月の総選挙で最低でも過半数の議席を獲得するつもりでした。それが一転、左派のやりたい放題を許す3分の1以下の議席に落ち込みかねなくなったのです。

保守新党と左派が共闘

――「国民の力」の支持率も落ちているのですか?

鈴置:韓国ギャラップの世論調査によると、この政権下で「国民の力」と「共に民主党」の支持率は拮抗してきました。2023年11月第3週の調査では35%対33%で「国民の力」の支持率がわずかに上回っています。与党も困ったものだけど、野党もだらしない――のです。

 保守の最大の懸念は李俊錫氏ら反尹錫悦派が「国民の力」から出て、新党を結成する構えを見せていることにあります。保守分裂選挙となれば当然、「国民の力」の議席は食いとられます。「共に民主党」が3分の2を取れなくても、新党と力を合わせて弾劾に動く手もあります。反尹錫悦という点では共闘できますからね。

韓国の“持病”内輪もめが始まった ハンストで抗った野党代表、『監獄送り』を狙う尹錫悦」では反李在明派が「共に民主党」から分離する可能性を指摘しましたが、今度は「国民の力」が分裂の危機に瀕したのです。

 保守系紙は声をからして団結を呼び掛けています。朝鮮日報は区長補選の敗北以降、先に紹介した「大統領が変化すれば『災い転じて福』、そうでなければ『弱り目に祟り目』」(10月12日、韓国語版)を皮切りに、連日のように社説で「国民の力」を叱咤しています。以下は社説の日付と見出し、ポイントです。

・10月13日「大統領と与党が変わらねば重大な国政改革もできない」=尹政権は日本式の「失われた20年」を避けるための改革を公約した。実現には議席が必要だ。政策の方向は正しいが、方式と態度が問題と思う国民が多い。

・10月14日「選挙に惨敗した政党が刷新案も出さず、内輪もめ」=尹錫悦系の党幹部は総辞職すべきだとの声があがったが、無視された。自ら責任を取る人は1人もいないのだ。

・10月17日「『ひょっとして』と思ったが『やっぱり』の『国民の力』」=選挙惨敗を受け「国民の力」代表は「首都圏などの人材を党幹部に起用する」と語っていた。ところが党の3大要職に任命されたのは嶺南出身者ばかりだった。

・10月19日「『国民が常に正しい』と言う尹大統領、人事もそうしているのか」=「国民の力」は嶺南中心の偏狭な政党と指摘されてきた。区長補選の敗北もこれと無関係でない。ところが、刷新した党3役が皆、嶺南出身者だ。

 なお、嶺南とは韓国南東部の釜山(プサン)広域市、大邱広域市、蔚山(ウルサン)広域市、慶尚南道(キョンサンナムド)、慶尚北道を指します。嶺南は伝統的に保守の地盤ですが、ソウルを含む首都圏でも勝てないと総選挙で過半数を取れません。

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