「質と量の戦いだよ」あるウクライナ兵士はつぶやいた…ウ地上軍に密着取材、日本人記者が見た緊迫の東部戦線【写真多数あり】

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制空権のない平原での厳しい地上戦

 私たちは次に、BM-21自走多連装ロケット砲の部隊を訪れた。この兵器も先の自走榴弾砲とともに共産圏の代表的な火砲で、60年代に開発された。今も旧社会主義国だけでなく世界中で広く使用されているロケットランチャーである。

 米国製ブラッドレー歩兵戦闘車や155mm自走榴弾砲などと路上ですれ違い、欧米が供与した兵器が稼働しているのは確認できた。ただ前線は1000kmにも及び、ウクライナ軍の多くの部隊ではいまだにソ連時代の火砲で戦闘を行っている。

 BM-21の出撃に同行する。見通しのよい場所に車を停め、照準を合わせて発射するまで数分とかからなかった。この火器の射程は約20km。ターゲットは約10km先のロシア軍の陣地だという。ロケットを発射し終わるとただちに猛スピードで移動する。敵の反撃を避けるため、発射地点から遠ざかるのだ。林の中に車体を突っ込んで、上空からの監視を警戒する。

 BM-21を仕切るロマン分隊長は、「敵の陣地が少し近づいてきている」とロシア軍の攻勢を認める。激戦が続き1日に20回以上出撃することもあるという。最も大きな困難は何かとの質問には「何といっても『空』だ。空からの監視が厳しく、射撃位置に移動するやいなや砲撃を受けることもある」との答え。戦争開始直後はロシアが圧倒的に制空権を握っていたが、ウクライナ側がしだいに対空防衛を整え、いまではロシアが自由に飛行機を飛ばすという状況ではないものの、制空権がいまだロシアにあることは否定できないという。

「敵機だ!」と兵士が叫ぶや、上からものすごい爆音が降ってきた。あわててインタビューを中断してしゃがみ込む。空を見上げると、木々の間からジェット戦闘機3機が低空で侵入し飛び去っていくのが見えた。

「フレアが見えた」と遠藤さん。フレアとは航空機が、地対空ミサイルの目くらましとして放出する発火型の金属片だ。のちに実はロシア軍機ではなく、ウクライナ側のスホーイ戦闘機と判明したが、ここが空をめぐって両軍が激しくせめぎあう最前線であることを実感させられた。

 制空権のない平原での地上戦がいかに厳しいか、専門家でない私にも想像はつく。しかも旧式の火砲で、弾薬の補給も不十分ななかでの戦い。新しい武器と十分な弾薬、そして航空兵力をという前線兵士の訴えは切実だった。

高世 仁(たかせ・ひとし)
ジャーナリスト。著書に『拉致-北朝鮮の国家犯罪』(講談社)、『チェルノブイリの今:フクシマへの教訓』(旬報社)などがある。2022年11月下旬にはアフガニスタンを取材した。

デイリー新潮編集部

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