「Please sit down」はNG 「外国人観光客」を“悪者”にしないために必要な最低限の「説明」と「英語力」とは

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ちゃんとルールは伝えておくべきだった

 その場にいた私も自分のビールを飲まれたし、A氏は自宅に帰ってお取り寄せで買っていたジンギスカンを大量に店に持ち込むハメになった。当然、私は自分の分と、飲まれてしまって呆然とする知人の分のビールを買いに行くこととなる。恐らく彼らは「この時期だけは無礼講で食べ放題飲み放題。この街の人は誰をも歓待する」といった説明を受けていたのだろう。英語で「食べ放題」を意味する「All you can eat」という言葉を、彼らを紹介した日本人が使っていたのかもしれない。この時は人数が増えて一般席も使うことになり、店にとっての機会損失が出たため、A氏が補填したのだという。同氏はしみじみと「ちゃんとルールは伝えておくべきだった」と振り返る。私もこの6人ないしは謎の「紹介者」をA氏が認識していたのかと思っていたのだが、どうもそうではなかったようなのだ。

 となると、外国人観光客をもてなし、受け入れる側も快適な思いをするには英語で説明する能力が必要になる。さらに「丁寧な英語」も重要だ。日本人が「お座りください」と言おうものなら「Please sit down.」となりがちだ。いくらPleaseがついていたとしても、sit downという表現には学校で教師が立ち上がり騒ぐ生徒に言うか、警察の取調室で警官が容疑者に対して使う言葉である。「Have a seat.」が正しい。

 こうした言い方ひとつでも外国人の受け止め方は異なってしまう。上記唐津くんちのしきたりを日本人的思考の英語にするとこうなる。「Please don’t drink others’ beers.」などと言ってしまうかもしれないが、ここは「Bring your own beer, there is a liquor shop in the right side of the street, and have fun!」的な言い方の方がいい。

互いに不快に思わないために

 こうした英語を学ぶにはネイティブが執筆した英語の参考書が役に立つ。『それ、ネイティブ言わないよ! 日本人が間違えやすい英語表現100』や『ついつい出ちゃう!日本人のかんちがい英語』『その英語、本当にあってる? ネイティブならこう答えます』といった書籍は今後外国人と接し、互いに不快に思わないためにも必要な知識が網羅されている。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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