4児の母で講談師の一龍斎貞鏡が語る「二刀流」の生き方 「子育てで得られる感情を言葉に」
武士のようなたたずまいで江戸っ子気質
入門を申し出てから1年半あまり。大学卒業が近づいた平成19年12月、それまで頑として首を縦に振らなかった父から声を掛けられた。
「暮れのある日に“着物に着替えろ”と言われ、父について行った先は、人間国宝だった一龍斎貞水先生のご自宅でした。父が“こいつが弟子になりたいと言っているのですが、いいでしょうか”と言うと、貞水先生は“そりゃぁ、貞山くんの娘だから当然のこと。おめでとう!”と仰っていただいた。これで平成20年1月に入門が決まりました」
以降、父娘の関係は「師匠と弟子」に変わった。
「呼び方も私が“お父ちゃん”で、父は私の本名の“靖世(やすよ)”とか“やっちゃん”だったのが、“師匠”“貞鏡”に。父は一昨年亡くなりましたが、武士のようなたたずまいが美しく、江戸っ子気質で表裏がない。好きなものは好き、嫌いなら相手が誰であっても、“オレ、あんた嫌い”と言うような人でしたね」
偉大な父を持つ娘ならではの苦労もあったそうだ。
「私は人一倍不器用で粗忽者なので、これまで派手なしくじりを重ねてきました。その度に周囲から“貞山さんは娘にこんなことも教えてこなかったのか?”と言われたことも。師匠の顔に泥を塗るようで、この時は本当に辛くて大変でした」
僧侶と結婚
貞鏡は平成28年に6歳年下の僧侶と結婚。出産・育児をこなすうち、斯界には女性講談師が増え、いまでは全体の半数以上を占める。その右代表的な存在の貞鏡は、昨年、文化庁芸術祭賞新人賞を受賞し、今年は真打に昇進を果たした。
「講談の魅力は張(は)り扇(おうぎ)の背筋が伸びるような音、独特の言い立て、修羅場の迫力などたくさんあります。でも、私は何より物語を表現する日本語の美しさだと思うんです」
最近は講談ファンのすそ野を広げる活動にも携わる。
「ピアノの伴奏に合わせて講談を読むピアノ講談をはじめ、子どもたちを対象にした紙芝居仕立ての講談会も開いています。さらに今後は、一龍斎のお家芸『赤穂義士傳』や講談の基礎の『軍談・修羅場』を、時間をかけてしっかり勉強したい」
弟子を迎えたら“三刀流”。
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